6月に入って二回ほど、いわき市内に生息しているカザグルマの花の新聞記事を目にした。カザグルマはつる植物。日当たりのよい山野に自生する、と物の本にある。発見場所は、盗掘の心配があるのだろう、特定されていない。
記事に添えられた写真を見たときに、かつて夏井川渓谷=
写真=で目にした、同じような花を思い出した。〈なんだ、トケイソウか〉。写真も撮らずに通り過ぎた。その形が今も脳裏に焼き付いている。
カザグルマを知らなかった人間には、そのとき、単に図鑑で知っている園芸品種のトケイソウが思い浮かんだにすぎない。いや、今でもトケイソウだったと思っている。が、新聞写真のカザグルマはやさしく、やわらかだ。それにも近い、そんな印象の修正が始まった。カザグルマではなかったか、と。
一つは、トケイソウだったなら、なぜそこ(川岸の杉林だった)に種をまく理由があるのか、仮に上流から種が流れ着いて発芽したとしても、そこに一つしかないのはなぜか。
結論を出す必要はない。カザグルマは今や、夢のような花だ。その花を一瞬だけ見た、そして消えた。それがトケイソウだったとしても、その花も一瞬だけ花開いて消えた。渓谷では、よく分からないことがときどき起きる。
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