2011年10月5日水曜日

山で迷う


キノコ採りに夢中になるあまり、オレはどこにいるのだろう――山の中で戻る方角を見失い、不安に陥ることがある。これまでに二度あった。平市街地の郊外、石森山での経験だ。里山でさえそうだから、奥山ではますますパニックになる。

尾根から沢へ下りる。沢から尾根へ上がる。別の尾根へ、別の沢へ――となると、よほど東西南北を頭に入れておかないと、自分の位置がわからなくなる。行きと帰りの景観がまるで違うからだ。迷ったら冷静ではいられない。

キノコ観察会が閼伽井嶽で行われた。20分ほど迷ってしまった。道路から混交林に入り、仲間とつかず離れずしているうちはよかったが、だんだんばらばらになる。ある人は棒で木をたたき、ここにいるよというサインを送っている。ある人は声を掛け合っている。それが、途中から聞こえなくなった。たまにカケスが鳴くほかはコソリともしない。

さて帰るか――。“キノコ屋”の習性で単独行動をとり、キノコの少なさに見切りをつけて来た道を戻ったら、まるで知らないところに出た。閼伽井嶽の頂上だ。標高604.9メートル。標識があるので分かった=写真

あらかじめ観察場所の地図を渡されていた。それによると、北側の道路から林内に入り、尾根付近を南へ、南西へと林床をなめまわしたが、成果は少なかった。とぼとぼ“そま道”を戻る。道なりに進んだら、北東へ、途中から下って北へとなるところが、東にある頂上へ着いたのだった。地図を見て迷ったことを知った。ずいぶん逸脱していた。

さあ、どうするか。たまたま磁石を持っていたので、地図と方位を組み合わせて歩く方角を修正する。

磁石を持っていたのはほんの偶然だった。夏に骨董店で売っていたのを、軽い気持ちで買った。山に入ることがあれば方角を確認するために使いたい――初めて胸ポケットにひそませたら、たちまち役に立った。

あとで集合場所に参加者が戻ってきた。一人がつぶやいた。「道に迷って閼伽井嶽の頂上まで行っちゃった」。同じではないか。途中で左に下りなければならないところが、道なりにまっすぐ進んでしまったのだ。北へ――。それが東へ、になった。たかだか1キロ四方程度なのに、同じ尾根筋で迷ってしまう。キノコ採りの怖さをあらためて知った。

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