2011年12月24日土曜日

送電鉄塔


いわき市小川町の草野心平記念文学館は夏井川右岸の高台にある。館内のアトリウムロビーからはガラス壁面越しに、空高くそびえる二ツ箭山を望むことができる。駐車場からも阿武隈の山並みを従えた二ツ箭山が目に飛び込んでくる。そのゴツゴツとした山容が途切れるあたり、向かって左側の山の裏から駆け下るように送電鉄塔が立っている=写真

今までは、景観を破壊する人工物、二ツ箭山にはふさわしくない、そんな気持ちでできるだけ見ないようにしてきた。その気持ちに変わりはない。が、これは東電の送電線だ、どこから来てどこへ行くのか――。急に気になって、グーグルアースと国土地理院の2万5000分の1地図(送電線が書き込まれている)で追ってみた。

東電広野火力発電所から送電線が来ていた。送電線は火発のある広野町の海岸部から西へ、浅見川の源流部である阿武隈高地へと延び、いわき市北部の猫鳴山南方をかすったあと、隣の二ツ箭山の背中をこするようにして南西へ進み、肩口から夏井川支流・加路川へとなだれる山腹を駆け下りながら、さらに西へと向かっていく。

文学館から見える送電線と鉄塔は、この加路川流域の尾根筋を延びるものだった。広野火発の電気はこのあと、磐越東線と隣り合う「地獄坂」付近で夏井川渓谷を横切り、三和町上永井を通過して、同・中寺「新いわき開閉所」に着く。

同開閉所は、福島第1、第2原発からの2本の送電線ともつながっていた。両原発から富岡町上手岡の「新福島変電所」へと送られてきた電気は、そこから並行して西の阿武隈高地、川内村へ向かい、いわき市川前町の神楽山のふもと(外門)を経由して、「新いわき開閉所」に届く。

3本の送電線はこのあと2本になり、一路、首都圏へと向かう。地図で福島県内から栃木、埼玉県へと追ったが、関東平野のだだっぴろい市街地にまぎれてわからなくなった。いや、疲れて追いかけるのをやめた。

送電鉄塔に限らない。自衛隊のレーダー基地(大滝根山頂上)、水石山の航空灯台……。スカイライン(稜線)を人工物が犯しすぎる。風力発電もそうだ。わがふるさとの阿武隈高地は、スカイラインが人工の突起物にまみれている。

自然エネルギーを利用しようという流れには賛成だが、こと自然景観の観点からは、もっと悩みを深めた政策にしてくれ、自然エネルギーだからいい、などと単純に考えてくれるな、と言いたくなる

広野火発の送電線は生きている。が、福島第一、第二原発の送電線と鉄塔は今や仮死状態だ。やがて「無用の長物」になる。そのあかつきには自然景観回復のための解体・撤去が求められるのではないか。

0 件のコメント: