ミョウガタケ(ミョウガの若い穂)は香りを楽しむ。家の庭に群生する。ときどき根元からカットして食べたが、旬は間もなく終わる。
まずは刻んで味噌汁に散らす。糠床に入れる。あとは、即席漬けだ。そのことを前に書いた。
カブとキュウリを買って来て薄切りにする。ミョウガタケを細かく刻む。これをだし昆布と庭のサンショウの若葉とともに、即席漬けの容器に入れて塩でまぶす。あとはバネ式の蓋を閉めて水が上がるのを待つだけ。
初夏らしいさわやかな風味に包まれた一夜漬けだ。朝漬ければ昼にはもう食べられる。「半日漬け」でもある。
塩は特別のものがあった。南仏・カマルグ産の天日塩で、容器には「フルール・ド・セル(塩の花)」と書かれている。
この塩は、カミサンが同級生からもらった。子どもがフランスに住んでいる。子どもを訪ねたとき、お土産に買って来たのだという。
日本の食塩よりはやや粒が大きい。なめると甘みもある。ミネラル分が多いのだろう。
「カマルグの塩」で検索すると、テレビで見た南仏の太陽と海の映像が広がった。完全な天然海塩で、フランスの料理人たちにこよなく愛され、「塩の真珠」と呼ばれているそうだ。
塩田に地中海の海水を引き、春から夏にかけて太陽と風の力で濃縮されることで、濃厚で力強い味の塩になるのだとか。
南仏の海浜といえば湿地帯が思い浮かぶのは、むろんテレビの自然番組の影響だろう。
野生の白馬が生息し、フラミンゴの大群が羽を休めている――これが一般的な南仏の海浜のイメージだが、そこに塩田も広がっているということになる。
さて、そこでつくられた塩を使えば、少しは変わった一夜漬けができるのではないか。がぜんやる気になったので、直売所へ寄ったときにカブとキュウリを手に入れた。
折から、山菜のお福分けが続いた。煮物や汁物にしても食べきれない。てんぷらにもなった。
そのてんぷらにカマルグの塩をパラッとやる。とりわけ、タケノコにはこの塩が合った。タマネギのかき揚げもいける。
てんぷらはふだん、醤油につけて食べる。が、塩の方がいい場合もある。タケノコはそれで味がよく引き立った。
一夜漬けの話に戻る。水はすぐ上がった。塩は控えめにまぶしたので、わりとあっさりした仕上がりになった。
キュウリとミョウガタケの緑、カブの白と、いかにも5月にふさわしい彩りだ(と最後の日になって思う)。ご飯だけでなく、晩酌のつまみにもなった。ほのかに甘い塩味がとてもよかった。