2010年1月16日土曜日

おとぎの国の家


昨日の続き。北欧を旅して、木造家屋の色の多彩さに目を見張った。外観が白色だけでなく、ワイン色、黄色、緑色、灰色と実にカラフルだ。なかでもノルウェーでは、ミュールダールからフロム鉄道を利用してフロムまで下り、ソグネフィヨルドの一部、ネーロイフィヨルドをフェリーで観光した。

フロム渓谷で、ネーロイフィヨルドで、おとぎの国に出てくるようなカラフルな家をたくさん見た=真。観光客、とりわけ屋根瓦と白壁の木造家屋を見慣れて育った日本人には、外観が原色に近い建物はどうしても非現実的なものに映る。絵本の中から飛び出したような感覚を抑えることができなかった。

夏から秋に移り変わったばかりの、9月下旬の旅がそうさせたのかもしれない。晴れてはすぐ曇り、曇ってはすぐ雨が降り、またすぐ晴れるノルウェーの猫の目天気。とはいえ、空の青さはまだまだ日本の秋の空とそう変わらない。そんな季節に見る原色だから、日本人が違和感を持つのは当然だろう。

が、なぜあんなに外観がカラフルなのか――日本に帰ってからも疑問が頭から離れなかった。佐伯一麦の小説や随筆を読んでおぼろげながら分かりかけてきたものがある。「白夜の夏」ではなく「極夜の冬」から向こうの生活文化を、建物を見る必要があるのではないか、ということだ。

北極圏では冬の一時期、全く太陽が顔を出さない。薄暗く、寒く、陰鬱な雲と雪空の下で、人はなんとか明るく温かく冬をやり過ごしたいと願う。家のカラフルな外観はそうした冬の暗色の世界にともる明かりのような役割を果たすのではないか。真冬こそ、カラフルな外観は癒しの効果を発揮するのではないか、と考えると納得がいく。

たぶん、「おとぎの国の家」といった感覚は、冬の切実さを知らない旅人がよく陥る誤解なのだ。ちょうど極夜が終わりかけた今の時期、日本人が冬至に「一陽来復」の希望を見いだすように、向こうの人たちも向日的ななにかを体内に感じ始めていることだろう。

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