赤いちゃんちゃんこよりは黒い半纏(はんてん)がいい。還暦の記念に、いわき市に工房を構える刺繍工芸家望月真理さんの作品を購入した=写真。「半纏を着て街を歩く男はかっこいい」。望月さんの言葉に「オレも」と反応してしまったところもある。ほぼ4年前のことだ。
その望月さんからおととい(9月5日)朝、電話が入った。たまたま私が出た。「男性から頼まれて半纏をつくっているけど、袖口が気になって。試着してくれないか」という。その日、外出の予定はなかった。午後、わが家に望月さんがやって来た。
失礼ながら、年齢的にはわがオバサンのクラスだ。80代後半だろう。車を運転する。が、歩くのには歩行器が必要だ。歩行器は折り畳み式だった。
早速、制作途中の半纏に袖を通す。望月さんの目の色が変わる。Tシャツやセーターの上に羽織ることを想定しているという。私から見ても袖口が広すぎる。そのことを率直に言うと、納得して待ち針を刺した。
用がすめば雑談だ。望月さんはアジアの少数民族の刺繍コレクターでもある。インド、バングラデシュ、ベトナム……。そのへんを踏まえてベトナムの話を聴いた。ベトナムには8回も行っているという。「10回は行きたいが、足が(悪くて)ねぇ」
ベトナムに絞ったのは来週、同級生と“修学旅行”に出かけるからだ。カンボジアにも行くと言ったら、「アンコールワットね」。観光旅行であることを見透かされている。刺繍を求めて、地を這うようにアジアの山岳に分け入ってきた望月さんにとっては、定番のパック旅行など、お気軽な、旅ともいえない移動でしかないのだろう。
辛辣だがユーモラス、ときに少女のように純粋で率直。水、食べ物、織物、市場、屋台……。旅のベテランからたっぷり一時間、ベトナム文化について貴重な情報を得ることができた。楽しい“個人授業”だった。
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