ヤマザクラにとっては“花曇り”の穏やかな一日になった。きのう(4月19日)、日曜日の夏井川渓谷。アカヤシオ(イワツツジ)の花は散り、行楽客の姿が消えた。1週間前の大混雑がうそのようだ。
戸数10戸ほどの渓谷の小集落・牛小川に、春日神社の祭りを告げるのぼりが立った。牛小川では、アカヤシオの花が見ごろの日曜日、「春日様」のお祭りが開かれる。といっても、神官がくるわけでも、みこしが練り歩くわけでもない。各家から1人が出て集落の裏山にあるヤシロに参拝し、ヤド(宿)で「なおらい」をするだけ。私にとってはまたとない情報収集の場だ。
今年は木々の芽吹きも、アカヤシオの開花も早かった。それに合わせて祭りは12日とみていたが、例年通りの第3日曜日になった。神社への急坂がこたえる。ヤシロのなかでお座りをするにしても、「どっこいしょ」となる。足の関節がいうことをきかない。何人かは同じように息を切らし、「どっこいしょ」と気合を入れていた。
ヤドが変わっていた。住家の一角にできた「宴会室」だ。家主が別の住民の協力を得て、納屋かなにかを改造した。土間にテーブルといす、一段高いコンクリートの床にはカラオケ装置がセットされた。流しも冷蔵庫もある。あらかたはリサイクル品だという。「オープン行事」として区の総会・懇親会が開かれたらしい。以前と違うのは、2次会(カラオケタイム)が追加されたことだ。
神社への参拝の途中、煙突から煙が立ち昇る“外風呂”のような建物が目に入った。それが「宴会室」で、マキストーブを焚いて中を暖めていたのだった。
土砂崩れや土石流が発生した沢の通称地名に「ジャクヌケ」がある。カラオケタイムの前に、それに類した地名があるかどうかを聞いた。すると、いつも的確な情報をくれるKさんが反応した。「ジャッコケ」がある。「土砂崩れがあったところ」だそうだ。
「ジャクヌケ」、「ジャッコケ」。発音が似ている。夏井川渓谷、あるいは近辺では共通した通称地名とみていいようだ。ただし、当てる字の感覚が違っていた。私は「蛇(ジャ)」を思い浮かべていたが、溪谷の住民は「砂(ジャ)」あるいは「弱(ジャク)」を挙げた。漢字はわきにおいて、自然災害にちなむ地名が存在する――それがわかっただけでも大収穫だ。
「なおらい」の途中からカラオケタイムになった=写真。アカヤシオの花は散ったが、いつの間にか集落には周年枯れないギンギラの空間ができた。夜のカラオケは裏山のイノシシにも聞かせる――そんなイメージを抱かせる「宴会室」だ。
「宴会室」は住民の「コミュニティセンター」になり、「談話室」になり、「スナック」にもなる。そのうち「ボトルキープ」をする人が現れたりして。
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