落石、土砂崩れは夏井川渓谷では常態だ。土石流の危険地帯でもある。地名、あるいは地図にはのっていない通称地名に「ジャ〇×」とあったり、言われたりしていれば、土石がヘビのように崩れ落ちた(落ちてくる)場所とみていいらしい。自然災害地名である。
おととい(4月17日)午後、いわき地域に近代医療の種をまいた関寛斎(戊辰戦争時の奥羽出張病院長)を調べている知人が、北海道での晩年の寛斎を描いた小説「斗満の河――関寛斎伝」の作者である、これまた知人とわが家へやって来た。地元の知人には弟さんが、作家には錦町出身で水戸に住む知人が同行した。
寛斎ゆかりの地を見て回ったあと、大津波被害に遭った沿岸部を訪ねる途中に立ち寄ったのだった。
地元の知人は鉱石の研究者でもある。震災前はマツタケ採りもした。私の悪い癖で、溪谷のキノコの話を始めたら、地図にはない地形の地名の話になった。祖父と一緒に山に入り、マツタケのありかや通称地名を教わったという。
マツタケのありかは、息子には教えない。が、ライバルにはならない、かわいい孫には教えるのだという。イタリアやフランスのトリュフハンターも、ありかは「子どもといえども教えない」とテレビで言っていた。とはいえ、孫には教えているのではないか。ありかは非連続の連続で代々、頭のなかに受け継がれてきたはずである。
V字谷は、標高そのものは低くても、「深山幽谷」の様相を呈する。険しい地形が連続する。山の恵みをいただきに入るムラびとたちは、身を守るために地形的な特徴を記憶し、地名として共有化した。じいさんから「ここはジャクヌケ」「ここは〇〇のボッケ」などと実地に教えられたそうだ。
「ジャクヌケ」は、「ジャクズレ」「ジャヌケ」と同じで土砂崩れ(土石流)が起きやすい沢のことだろう。「ボッケ」は小高い丘。いつ、何が起こるかわからない山中に分け入るのだから、最悪の事態を避ける備えとして土地の特徴を知るのは当然のことだった。
東日本大震災では、夏井川渓谷でもあちこちで落石・土砂崩れが発生した。丸4年がたった今もその痕跡がはっきり見える=写真。山の尾根は「ソネ」。そのソネの直下、あるいは中腹が崩落して赤茶けた岩盤を見せている。写真の中だけでも5カ所以上はある。
全体に共通する寛斎の話をわきにおいて、ついつい自然災害の話になったのは、この4年の自然な帰結だろう。
昨年(2014年)8月、広島市で大規模な土砂災害(土石流)が発生し、多くの住民が亡くなった。そこのもともとの地名は「ジャラクジアシダニ」(蛇落地悪谷)だった。「ジャクヌケ」と同じではないか。
漢字で地名を解釈するのは間違いの元で、地名は基本的には通称地名=音(おん)で伝承された。漢字を当てると実態を離れたものになってしまう、そんな危険性もある。が、「ジャクズレ」「ジャヌケ」に漢字をあてれば「蛇崩」「蛇抜」になる。即物的に「ヘビのように土砂が崩れ落ちるところ」というイメージが浮かぶ。
きょうは夏井川渓谷の小集落・牛小川で「春日様」(春日神社)の祭礼が行われる。アカヤシオ(イワツツジ)の花の咲き具合を見ながらの開催で、個人的には12日かと思っていたが、きょうになった。「ジャクヌケ」とか「ボッケ」とか、通称地名についていろいろ仲間の住民に聴いてみよう。
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