阿武隈高地の東側斜面から始まる川は、ほぼ例外なく滝のように山中を駆け下り、平地に出てやっと穏やかな川の表情を見せる。そして、すぐ太平洋に注いで短い水の旅を終える。
流路67キロ。浜通りで最も長いいわきの夏井川がそうだ。相双地区、つまりは浜通り北部の川も、例外なく山中で深い谷を刻む。滑り台のような川である。
阿武隈高地は、はるかな地質学的な時間のなかで海底から隆起し、陸地になった。そのあと再び隆起して、再浸食が始まった。分水嶺の西側はなだらかな「隆起準平原」、つまり年をとって丸くなったような地形なのに対して、東側はいきりたつ若者のように水が大地をえぐってV字谷をつくる。
5月3日にいわき市の平地からあぶくまの山里・川内村を訪ねた。川内のまちなかを流れる木戸川は、穏やかな“里川”の風情を漂わせていた。砂利に埋まった川底が透けて見える。その川面をカワウが飛び=写真、カワセミが上流へ一直線に向かい、やがてカルガモがバシャッと着水した。
あぶくまの山と海岸部の平地の関係は、2階建ての家のようなものだろう。水源から始まる小さな渓谷と平地(2階部分)、そのあとに始まる大きな渓谷と平地(1階部分)――。木戸川でいえば、川内のまちなかは「2階部分」にあたる。
木戸川は川内の“里川”であると同時に、生産と生活に欠かせない“水の動脈”だ。川内を過ぎ、いわき市を抜けると、今度は“谷川”になる。
グーグルアースや国土地理院の電子地図を利用して、木戸川の始まりから終わりまで48キロを追うと――。水源は夏井川と同じ大滝根山、そしてその北の尖盛(とげのもり)、桧山あたり。川内を南下していわき市の戸渡川を飲みこんだあとは、市境に沿って楢葉町へと駆け下る。木戸川渓谷はこの楢葉町にある。
戸渡から楢葉の溪谷までの道はどうなっているんだろう。フィットなんかでは行けないのか。オフロードバイクや渓流釣りをやっている人間に、いつか聞いてみたい。
木戸川の下流では、サケ漁が行われている。町の観光資源でもある。津波でサケ養殖施設が壊れた。その復興のために国から交付金が認められた。
地震・津波、それに伴う原発事故以来、あぶくまの山を、川を、里をこの目に焼きつけておきたい、という思いが強くなっている。山から人間と自然を考え直したい、という思いも。川内を流れる木戸川、好きな川のひとつだ。
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