2017年11月8日水曜日

ツチグリの涙

 ツチグリというキノコがある。阿武隈高地では、まだ地中に眠っている幼菌(方言でマメダンゴ)を採取して、たきこみご飯やみそ汁の具にする。
 その珍菌が、夏井川渓谷の隠居の庭に出る。手のひらを地面に押し当てる。一部硬いところがあれば、指で掘ってみる。小石でなければマメダンゴだ。地面からちょっと頭を出したばかりのマメダンゴと砂の区別がつけば、簡単にマメダンゴが採れる。ほかにも幼菌が眠っているはずだから、指で周りを掘ってみる。あっという間に20~30個は採れる。

 今年(2017年)は食べるだけでなく、地上に現れて星型に外皮が割れ、胞子を放出して役目を終えるまでを“観察”する、と決めた。9月10日までの経過は前に拙欄で書いた。それを再掲しながら、「その後」を付け加える。驚くことがあった。
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 6月25日。全面除染で砂浜のように白くなった地面から、茶色い頭の一部(マッチ棒の軸先大~人間の小指大)がのぞいていた。右手人さし指でグイッとやると、転がり出た。周囲の地中にも同じ球体の感触がある。そちらもまさぐると、マメダンゴが現れた。最大2センチほどの幼菌が20個ほど採れた。二つに割ると、全部白い。炊き込みご飯にして食べた。
               
【7月】2日=まんべんなく、ではなくて、スポット的にマメダンゴが頭を出す。その数ざっと50個。次の週は、変化なし。16日=白っぽい表面の色が茶黒くなる。23日=裂開を始めた個体がひとつ。

【8月】6日=表面が緑灰色に変化した個体があった。カビにやられたか。13日=全体を地上に現した個体がある。パチンコ玉大だ。24日=試しに大きいものを踏むと、「プシュッ」とかすかな音がして裂けた。

【9月】3日=表面にひびの入った個体がいくつか現れる。ひびは十字状、あるいはベンツのエンブレム似とさまざまだ。コロンと地上に現れた個体を二つに割ると、中がチョコレート色だった。胞子の放出まで時間の問題だ。10日=裂開が近そうな個体が増える。
                  
 隠居へ行くたびに写真を撮ってわかったのだが、ツチグリは、幼菌が地中で形成され始め、地上に出て裂開し、胞子を放出するまでに時間がかかる。収穫せずに放置しておくと、かなりの数の幼菌が地上に現れる。6月下旬~7月上旬の旬の時期に2~3回は試食しても大丈夫かもしれない。ただし、ヒトデにホオズキの実をくっつけたような新しい残骸にはまだお目にかかっていない。
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 それから2週間後の9月24日。キノコ図鑑に出てくる、ヒトデにホオズキの実をくっつけたような残骸=星型のツチグリになっていた。ツチグリの最終形だ。日曜日のたびに観察すること4カ月。いよいよ写真撮りも終わりと安堵しながら、胞子袋を指でチョンチョンやったら、穴の開いている頂端から、胞子ではなく透明な玉がひとつ飛び出した=写真。

 なんだ、なんだ、これは! 直径1ミリにも満たないくらいのガラス玉、いや水玉だ。前日は雨になった。頂端から雨が胞子袋の中にしみこみ、それが外から押されたはずみで玉(ぎょく)のごとくポロリと現れ、転げ落ちた。朝の光を浴びて輝いていた。これこそが甘露?

それはこうだよ――と、この不思議の理由、ツチグリの涙のワケを説明してくれる人がいるかいないか。いれば、話を聞きたい。

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