「これ、おもしろかったよ」。カミサンが移動図書館から借りた本を差し出した。著者は若林正恭。「聞いたことないなぁ」。内心いぶかりながら手に取る。
本のタイトルが変わっている。『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(KADOKAWA、2018年7版)=写真。
口絵写真をめくっていたら、テレビでおなじみの顔が現れた。お笑いコンビ「オードリー」のツッコミ役ではないか。
相方は春日俊彰。髪型は八二分け、服装は半そでのワイシャツにピンクのベスト、そしてネクタイと、窮屈なくらいにきちっとしている。
それに比べたら若林正恭は、見た目は地味だ。が、テレビ番組ではMCを務めることが多いようだ。
ちなみに、MCとは「メイン・キャスター」とばかり思っていたが、バラエティー番組の場合は「マスター・オブ・セレモニー」(進行役)の略らしい。
お笑いタレントが書いた本である。同じお笑いタレントの又吉直樹は小説『花火』で芥川賞を受賞した。
矢部太郎は、漫画の『大家さんと僕』がベストセラーになり、手塚治虫文化賞短編賞を受賞した。
彼の『マンガぼけ日和』(かんき出版、2023年)は、やはり移動図書館~カミサン経由で読んだ。認知症のことを、英語では「ロンググッドバイ」という。このくだりが特に印象に残っている。
さて、本業からすれば余技。余技でも作家や漫画家として高い評価を得ているので、どちらも本業といってもいいくらい、最近のお笑いタレントは、二足も三足もわらじをはいている。
若林正恭もそうだったのか。とはいえ、読んでみないことにはわからない。パラパラやり始めると、目に飛び込んできたフレーズがある。
アラフォーだというのにニュース番組が理解できない。で、東大の大学院生を家庭教師に雇う。その彼に経済や歴史、社会について感じた疑問をぶつける。
バブル崩壊以後、終身雇用や年功序列が前近代的なものになる。それに代わって、成果主義の時代がやってくる。その象徴が「新自由主義」だ。
「新自由主義に向いてる奴って、競争に勝ちまくって金を稼ぎまくりたい奴だけだよね?」
というところまで思いが至り、ではこのシステム以と無縁の国はどこか、しかも陽気な国は――となって、がぜんキューバに興味を持つ。
ある年、夏休みが5日間取れることがわかった。すると、念願のキューバ旅行を思い立ち、スマホひとつで航空券とホテルを予約する。
そんな問題意識から訪れたキューバ紀行エッセーだ。内容は省略するが、本のタイトルも新自由主義をキーワードにすると、「なるほど」となる。
「表参道のセレブ犬」は勝ち組、キューバの「カバーニャ要塞の野良犬」はそれを超越した自由な魂といったところか。
同じタイトルの本が文春文庫にもある。こちらは、キューバのあと、やはり一人で訪れたモンゴルとアイスランドの旅行記を収録している。これも図書館から借りて読んでいる。
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