2010年1月11日月曜日

大滝根山の向こうへ


夏井川の水源は大滝根山の南東面。同じ山の反対側、北西面から発するのは大滝根川。大滝根川は郡山市内で阿武隈川に合流する。夏井川は太平洋に注ぐ。その下流、河口まで歩けば1時間弱、そんなところに住んでいる私には、近所の夏井川は格好の散歩コースだ。

生まれ育った町は、いわきではない。東西にのびた現・田村市常葉町の一筋町。夏井川とは反対の、大滝根川が流れる町だ。大滝根川は、町に南面する水田のはずれ、山を垂直にえぐるように流れている。今は、その崖がぐずぐずだ。とても崖とはいえない。町の人間は昔、その崖を「アカジャリ」と呼んでいた。

「アカジャリ」の遊び方が二つあった。一つは、崖の下部、3メートルあたりから川に「エイッ」と飛びこむこと。もう一つは、上へ上へとへこみをつくって崖の上まで登りきること。高さは20メートルくらいあっただろうか。今思うと、危険と隣り合わせで快感を求めていたのだ。

崖がうっすら赤みがかった色をしていたから、「アカジャリ」。「アカジャリに行くべ」。夏休みであれば、それは「水浴び」に行くことだった。プールなどはどこにもない時代、つまり、高度経済成長時代の前の話。町の子どもたちは決まってそこへ水浴びに出かけたのだった。そして、イワツバメよろしく崖にへばりつく競争をした。

プールができると、子どもたちは川では遊ばなくなった。当然、川にまつわる地名、景観も意識から遠くなる。「アカジャリ」が見えなくなる。鋭く立ちふさがっていた崖は、いつか望郷の世界のなかで崩れるしかなくなった。

――あとさきが逆になった。

年始のあいさつを兼ねて9日、実家へ帰った。いわきから阿武隈の山並みを見る限り、路面には雪はなさそうだ。が、川前から小野町の境にある坂道が難しい。ネットで調べると、いわき市内の国道49号は路面が乾燥している。ということは、夏井川沿いの県道小野四倉線も同様だろう。

天候は急変する。それに備えて、義弟からタイヤチェーンを借りて、午後の早いうちに出かけた。いわきの平地では晴れていたのが、夏井川渓谷へ入ると曇って雪がふっかけてきた。内心穏やかではない。が、積もるほどではない。田村市に入ると、大滝根山がうっすら白く雪化粧をしていた=写真。道路は大丈夫だった。

翌10日朝8時前。ご飯を食べたあと、なにげなく外を見ると雪がぱらついていた。道路も白く点描されつつある。慌てて辞去し、車を走らせた。結果はオーライ。しかし、行きも帰りも「タイヤが滑ったらどうしよう」。それだけに頭を占領されたドライブだった。

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