2010年1月26日火曜日

風化作用


去年秋に北欧を旅して以来、夏井川渓谷の地形・地質に関する印象が変わった。ノルウェーのフィヨルド(入り江)と、その奥に連なるU字谷にはぶったまげた。夏井川渓谷の比ではない。日本のV字谷は宇宙から見たら道端の側溝みたいにかわいいに違いない。

前にも書いたが、フィヨルド渓谷(U字谷)のむきだしの岩盤に「地球の根岩」のような印象を受けた。4カ月が過ぎた今も「根岩」に圧倒されたままだ。もう一度フィヨルドを見に行きたい、そんな思いが消えない。

夏井川渓谷は、谷底の河畔(120メートル)から一番高い山頂(680メートル)までの標高差はざっと560メートル。これはこれですごい深さだ。が、谷そのものが重畳として緑に覆われているために、その深さを実感できない。浸食・風化作用でできたV字谷と、氷河がえぐりとったU字谷の違いだ。

フィヨルド渓谷は、硬い岩盤が削られたままの状態でほぼ垂直に谷底から山頂へと続く。その高さ数百メートルといえば、夏井川渓谷とそう変わらない。が、谷底が広い。サッカー場3個分はあるという。夏井川渓谷は表面が緑に覆われている。これもやさしい印象を与える。

ノルウェーの地質について、向こうで世話になったガイドのアダチさんがこんなことを言っていた。

「橋の脚が細いのは、ノルウェーでは地震が少ないため。岩盤にのせるだけでいい」。日本人から見ると、フィヨルドに架かる橋の脚は栄養失調の少女のようだ。それで十分だという。そのうえ、「岩盤が硬いのでユーラシアプレートはより軟らかい日本海の方へ向かっている」。東西のプレートがせめぎ合っているので、日本は地震が多いわけだ。

フィヨルドの断崖も、その奥の渓谷も風化作用を受けないはずはない。が、どちらもつるんとしている。部分的には崩れが見られたが、それは“かさぶた”がはがれるようなものだろう。かたや、夏井川渓谷。こちらはふだんから落石が続いている。若者と老人の違いか。

なかでも夏井川渓谷で激しいのが、〈崩れ〉と私が勝手に名付けた「木守の滝」の手前。急斜面に生えているモミの若木の幹が落石によってべろりと皮をはがされた=写真。それが2年ほどたった今も残っている。小規模な落石は続き、将来、大規模な落石があるに違いないと思わせるほど、中腹の岩盤はひびが入り、風化によってもろさを増している。

ノルウェー体験が、夏井川渓谷の落石の怖さを倍加させた。

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