2017年12月21日木曜日

「凡事徹底」

 このところ1年に1回、目にする四字熟語がある。「凡事徹底」=写真。危険物を扱うプロの集団だからこそ、当たり前のことをきちんとやろう、それを意識づけして日常の習慣にしよう、ということなのだろう。
 企業のメセナ(社会貢献)活動の一環として、常磐共同ガスが本社で教養講座「ガスワンふるさと教室」を開いている。主にいわき地域学會の会員が講師を務める。私も最近は師走担当になった。

 地域学會の初代代表幹事里見庫男さんの提案に会社が応じた。月1回として、積み重ねること152回。もう12年以上続く。地域学會の市民講座は年10回、先日、333回目を開いたから、こちらは33年余だ。

 ふだんは通り過ぎるだけのガス会社の中に入る。と、作業スペースに「凡事徹底」が大書され、会議室に「凡事徹底」の額が飾られている。この四文字を見た瞬間(だけだが)、なぜか体がシャキッとする。

 凡事は、漢和辞典には「世のすべてのこと」、デジタル大辞泉には「ありきたりなこと、あたりまえのこと」とある。いろんな凡事がある。つまりはいろんな「凡事徹底」がある。あいさつを徹底する。片づけを徹底する。なんでもいい。手抜きをしない。新幹線「のぞみ」の台車亀裂は、安全確認のための「凡事不徹底」が招いたものだろう。

 もう何年も前に雑誌に載った不動産会社の広告がある。カミサンが切り抜いてトイレに張った。「ささやかさ」という題で作家の角田光代さんが短文を書いている。地下タビをはいて街頭の花壇を手入れしている職人の姿(撮影・平間至)がいい。

「差し出されたお茶とか。/てのひらとか。/毎朝用意されていたお弁当とか。うつくしい切手の貼られた葉書とか。/それから、歩道に咲くちいさな赤い花とか、あなたの笑顔とか。/私たちは日々、だれかから、/感謝の言葉も見返りも期待されない/何かを受け取って過ごしている。/あまりにもあたりまえすぎて、/そこにあることに、ときに/気づきもしないということの、/贅沢を思う。幸福を思う。」

「凡事徹底」は、つまりは相手を思いやることなのだろう。ガスを利用する人々を、乗客を、読者を、子どもを、患者を、ふるさとを追われた人々を……。「ガスワンふるさと教室」も続けること自体、みごとな「凡事徹底」ではある。

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