2018年5月2日水曜日

差塩湿原のミツガシワの花

 毎日が“自由業”の身だが、ときどき「年寄り半日仕事」が入る。現役サラリーマンにはゴールデンウイークでも、年寄りにはいつもの日曜日と平日でしかない(と、いってみる)。
 大型連休と重なった4月29日の日曜日、三和町の直売所「ふれあい市場」から、差塩(さいそ)を経由して山かげの川前へと抜け、夏井川沿いに少し下って牛小川の渓谷の隠居で土いじりをした。
 
 標高が500メートルほどの山あいの集落に、いわき市指定天然記念物「差塩湿原」がある。最終氷期の遺存植物・ミツガシワなどが生息する。その花が満開だという新聞記事に刺激されて、およそ30年ぶりに花と対面した=写真。

 当時、高校教諭だった湯澤陽一さんを講師に、年に何回か「山学校」が開かれた。戸草川渓谷のカタクリ大群落、平伏沼(へぶすぬま=川内村)の奥のブナの巨樹、大滝根山(田村市)のスミレたちを見たほか、差塩湿原のミツガシワ、川前・小白井(おじろい)のリュウキンカなどをこの目に焼きつけた。
 
 湿原は、いつかは土砂や枯れ草などが堆積して乾燥し、陸地化する。差塩湿原は、その過程がはっきりわかる場所かもしれない。昔はヨシが少なかったが、今は湿原の大半を覆っている。ミツガシワが生息できる環境は、せいぜい戸建て住宅2軒分、大目にみても3軒分くらいに縮小した。

 差塩湿原は通り道のそばにある。一帯は、周囲の山から土砂が流れ込んで平原化し、あらかたは水田になった。30年前のやはり今ごろ、湿原の周りを歩いていると、カッコウの朗らかな鳴き声が響いた。ミツガシワ・高原の青田・カッコウ――そのときの記憶がよみがえる。

 夏鳥のカッコウが差塩に現れるということは、托卵するオオヨシキリが渡ってくるということだ。ヨシを利用して巣をかけ、子育てをするオオヨシキリには好ましい環境でも、ミツガシワにはヨシの繁茂はよろしくない。
 
 それはともかく、カッコウの鳴き声をもう何年も聞いていない。今度はカッコウの鳴き声が聞こえるかどうか、そのためだけに「差塩越え」をしてみようと思う。

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