2018年5月23日水曜日

「5月の乙女」

 平市街の西方に阿武隈の山が連なる。南端は湯の岳。山肌の黒っぽい緑は針葉樹。杉林だ。周りの淡い色は落葉樹。つまり、本来の天然林。こちらは芽吹きの時期を過ぎて、青葉に変わった。この緑の濃淡がおもしろい。
 
「あそこに『5月の乙女』がいる」といったら、カミサンはけげんな顔をした。「どこに? あれが?」
 
 何年か前、若い仲間が教えてくれた。「人のかたちに見えませんか」。見える。湯の岳の東側斜面。杉林の黒い緑が、それをとりまく落葉樹の淡い緑のなかで、横を向いて座っている乙女に見えた。以来、街への行き帰り、国道399号(旧6号)の平大橋を渡りながら、この乙女を眺める=写真(橋上灯と橋上灯の間に見えませんか)。
 
 乙女と決めてからは、老婆でも母親でもない、ましてや少年でもない――というわけで、「1月の乙女」に始まって「12月の乙女」まで、月ごとに呼び名を替える。で、今は「5月の乙女」だ。
 
 わが家(米屋)に、定期的に訪れる静岡県のルートセールスマンがいる。カミサンが注文した商品とともに、季節の便りが届く。「富士山に春の訪れを告げる『農鳥(のうとり)』が出現したそうです。残雪が鳥のように見え、地元では田植えや農作業を始める目安とされているそうです」

 福島市の吾妻山の「雪うさぎ」は有名だが、富士山の「農鳥」はどんなかたち? ネットで検索したら、ツイッターの右向きの小鳥を左向きにしたような感じだった。レ点に近い写真もあった。今年(2018年)は5月11日、地元の富士吉田市が出現を発表した。
 
 いわきの山は、雪が積もっても数日で消える。残雪が鳥になったりうさぎになったりすることはない。「農鳥」に刺激されて、「種まきうさぎ」でもなんでもないが、「5月の乙女」を思い出した。
 
「5月の乙女」の山陰には、元同業他社の知人が住んでいた。10年前、いわきで勤務を終え、そのまま定住して「農の人」になった。私も会社を辞めたばかりだったので、情報交換を兼ねて夫婦で訪ねたことがある。その後、闘病生活に入ったことを風の便りで知った。その彼がゴールデンウイークの直前に亡くなった。

同い年で、私は週末だけの、彼は日々の山里暮らし。私はキノコ全般を、彼は冬虫夏草を――と、似たような志向をもっていた。冬虫夏草と虫カビは違うことを教えられたのが、その後のキノコ観察に大いに役立った

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