2015年7月22日水曜日

マメダンゴが出現

 夏井川渓谷にある隠居の庭は、おととし(2013年)の師走に全面除染された。表土が5センチほどはぎとられ、代わりに山砂が敷き詰められた。1年半たった今も、庭は砂浜のように日光を反射してまぶしい。
 庭木に囲まれた玄関前のそこだけ、わずか5センチほどの表層に人間の食用になる珍奇なキノコの菌糸が眠っていた。これが梅雨期に入るとめざめて、あちこちに丸いかたまりをつくる。ツチグリの幼菌(方言名マメダンゴ)だ。

 土中にあるので、発見は難しい。表土がはぎとられる前は、コケに覆われていた。コケを手で圧(お)すと、幼菌の硬い感触が伝わる。それを、指を入れて採った。

 コケごとはぎとられたあとは、ツチグリの菌糸が残っているとは思えない。除染から半年後の去年(2014年)はあきらめてチェックする気にもならなかった。今年はどうか。土いじりの合間に、気分転換を兼ねて玄関前の庭をなめるように見た。オヤッ! 茶色く汚れた親指大の“小石”があちこちにあるではないか=写真。コケが消えた分、マメダンゴが砂上に露出していた。

 ここまで色が汚れていると、内部は胞子が詰まって黒、あるいは紫色になっている。そうなるともう「食不適」だ。比較的色の淡い4個を採った。
 
 マメダンゴの旬は6月下旬。まだ小指大で白く、土中にある。内部も“白あん”状態だ。7月に入るとこれが親指大に膨らみ、胞子が形成される。

 無量庵の庭にツチグリが発生するとわかったのは、2009年の梅雨どき。ヒトデのように外皮の裂けた成菌がコケの上に現れたのを見つけてからだ。いながらにしてマメダンゴが採れるとは、と小躍りした。

 マメダンゴご飯(炊き込み)にする。取りたての絹サヤと一緒にみそ汁にする。外皮のこりこりとした歯ざわり、“白あん”のぐにゅっとした軟らかさとほのかな甘み――梅雨どきの、阿武隈高地独特の珍味だ。
 
 さて、あきらめていたマメダンゴが採れた。きれいな山砂の中で成長した。二つに割ると“白あん”と“黒あん”が半々だ。“黒あん”はごみ容器に入れて山へ戻す。“白あん”は……。ここでは食べたとも、食べなかったとも書かないでおこう。

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