2017年4月18日火曜日

いわきはカツ刺し

 日曜日(4月16日)の夕方、息子一家が来た。座卓(こたつ)にカツオの刺し身を置いて、晩酌を始める寸前だった。小4の上の孫が父親にうながされる。「(小学校の近くにある)魚屋の刺し身だぞ」
 私は、カツオの刺し身はおろしにんにくとわさびをまぜたしょうゆにつけて食べる。そのしょうゆに小4がカツ刺しをつけて口に持っていった。にんにくとわさびだ。吐き出すかと思ったら、一呼吸おいて「うまい」ときた。飲兵衛になるな、これは――驚きつつ、カツ刺し好きが一人増えたことをうれしく思った。

 阿武隈の山里で生まれ育った人間がいわきに移り住んで、カツ刺しのうまさを知ったのは結婚後だ。極言すれば、新鮮なカツ刺しがある――それだけで、いわきに根っこが生えた。

 やがて子どもが生まれ、幼稚園に入り、小学校へ行くと、何家族かが集まって、ゴールデンウイークにはタケノコパーティーを、夏にはカツオパーティーを開くようになった。親だけでなく、子もカツ刺しになじんだ。それから一世代、30年余がたった。カツ刺し好き3代目、いや、いわきの人間としてはごく普通の食習慣が孫にも形成されつつある。
 
 この日、夏井川渓谷の隠居へ行った帰り、草野心平記念文学館へ寄った。春の企画展「草野心平の詩 料理編」が前日の土曜日に始まった。リーフレットに「ふるさとの味覚」が載る。ふるさと・いわきのうまいものとして、心平はアンコウ、ウニの貝焼き、カツオなどを上げる=写真。
 
 カツオの回顧――。いわきのハマから心平の生まれ育った上小川村へ「ぼでふり(浜の小商人)」がカツオをかごに入れてやって来た。「切り身では売らない。そこで買った一尾を、荒縄でゆわいて井戸の中にしばらくひやしておいてから料理する。鰹のなかでは刺身と中落ちの味噌汁がおいしかった」

 いわきの沿岸部から「四、五里の距離」がある内陸の上小川村でも、「ぼでふり」のおかげでうまいカツオが食べられた、ということだろう。

 心平が子どもだったころからすでに100年がたつ。生カツオの冷温保存技術と流通ネットの進化のおかげで、阿武隈の山里でもまあまあのカツ刺しが食べられるようになった。いわきでは、早い時期から生のカツオが入荷する。私は、今年は2~3月あたりからほぼ毎週、カツ刺しを口にしている。

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