図書館の新着図書コーナーに、福島県・いわき市関係本として、阿部武『福島師範の植物研究――根本莞爾と師弟たち(2024)』(非売品)があった=写真。
著者の名前を見て思い浮かんだ人がいる。石川郡に住む阿部さんに違いない。奥付で、発行者でもある著者の住所を確かめると、そうだった。
福島県きのこの会会長である。いわきキノコ同好会にも所属している。植物の研究者でもあったか。
もっとも、植物と菌類は切っても切れない関係にある。圧倒的多数の植物が根を介して菌類とつながっている。
その関係の始まりは5億年前にさかのぼる。水中から陸に上がった最初の植物には根がなかった。菌類がその根の役目を果たした。
そんな関係を知ったばかりなので、福島県をエリアに植物・菌類両方にまたがって研究する阿部さんの仕事の意義・大切さがよくわかる。
私が初めて阿部さんと言葉を交わしたのは、6年前、いわきキノコ同好会の観察会が市内小川町の山中で行われたときだ。ブログを参考にしながら当時の様子を振り返る。
林道のそばで南方系のキノコであるアカイカタケを採取した。パッと見には16本の触手を持った赤いイソギンチャクで、一口大のケーキのようにも見えた。
平たい頂部には、凝固しかかった血液、あるいはゼリーのような層がある。かぐと腐臭がする。これが、胞子の運搬役のハエを呼ぶ。
いわきキノコ同好会会長の冨田武子さんに見せ、阿部武さんにも聞いて、「福島県内にも関東にも記録はない、非常に珍しいキノコ」(阿部さん)であることを知った。
さらに、観察会から2日後、阿部さんから手紙が届き、吉見昭一著『おどるキノコ――イカタケのひみつ』(岩崎書店、1983年)という児童図書があることを知った。
さて、阿部さんの最新論考は福島師範(現福島大学)の博物学教諭だった根本莞爾とその教え子たちの植物研究をまとめたものだ。
実はこの論考を借りる気になったのは、阿部さんが旧知の人だっただけでなく、参考資料として平成6(1994)年8月17日付いわき民報「交差点」が収録されていたからでもある。
筆者は菅原金男さん(宮城県本吉町)=元小学校長=で、「根本莞爾先生のこと」と題して、根本の先祖の地がいわき市遠野町であること、県花の「ネモトシャクナゲ」の「ネモト」は根本莞爾からきていることなどを紹介している。
牧野富太郎とは当然、関係があった。いわき市出身の英語教育者小野圭次郎も根本の教え子だったという。
論考はもちろんだが、今回は著者の阿部さんを含めて、周辺情報に興味が引かれて、それを紹介した。