新しい朝ドラ「おむすび」は、ヒロイン米田結(ゆい)が栄養士として人の心と未来を結ぶ「平成青春グラフィティ」だとか。
今は自立する前の少女編で、視聴者を引き付けるほどの事件は起こらない、と思っていたら動き出した。
ヒロインは福岡県・糸島に住む高校生だが、幼いころ、神戸で阪神・淡路大震災に遭遇した。家が倒壊したために、家族で父のふるさと糸島へ移り住む。そこでの、神戸の回想シーン。
幼い結は震災直後、母、姉とともに避難所にいた。厳寒期で周りの人も、結たちも寒さと空腹を我慢している。そこへおばさんが炊き出しのおむすびを持って来る。
避難者が多いので、2人で1個を分け合うしかない。おむすびは冷たくなっていた。状況を理解できない結は一口食べると、「おばちゃん、チンして」とねだった。
困ったおばさんは避難所へたどり着くまでの様子を語ってきかせる。街も、道路もめちゃめちゃになって、避難所までの道のりが険しくて時間がかかったのだ、と。
そのうえで「おばちゃんな、生まれも育ちも神戸やねん。大好きな神戸の街が、あんなんなるの見たら……」と涙ぐむ。
朝ドラのタイトルが「おむすび」とあるワケは、そしてヒロインが歩む人生の「原風景」は、たぶんこれだろう。
ヒロインの名前もそうだ。名字に「米」が入っている。名前は動詞にすると「結ぶ」。名は体を表すで、「おむすび」そのものだと、勝手に直観が告げる。
この直観はどうやら、おむすびをつくるおばあさんの写真を表紙にした本を読んだかららしい。
「おむすび」が始まるとほどなく、カミサンが「こんな本があるよ」と持ってきた。佐藤初女『いのちをむすぶ』(集英社、2016年)=写真=で、手に取るのは初めてだった。
本文の最初の文の冒頭に「食はいのち、食材もまたいのち。/食は生活の基本です」とあり、著者のてのひらにおさまった海苔のおむすびの写真が隣のページに収められている。
同書によれば、佐藤初女は大正10(1921)年、青森市に生まれた。小学校教員になり、結婚を機に退職したあと、ろうけつ染めを習って作品を発表するようになる。この間、カトリック教会で受洗している。
彼女の人柄と手料理を慕って自宅を訪ねる人が増え、自然に悩みごとの相談を受けるようになる。多くの人の協力で自宅に長期滞在のできるスペース「弘前イスキア」ができた。
さらに平成4(1992)年には岩木山麓に「森のイスキア」を建設。龍村仁監督のドキュメンタリー映画「地球交響曲第二番」にも出演し、脚光を浴びた。彼女は同書の出版直前、94歳で亡くなった。
本文の冒頭の続き。「心が苦しみで詰まっている人は/なかなか食べることができません。それでもひとくち、ふたくちと食べ進み/“おいしい”と感じたとき、生きる力が湧いてきます」
「おむすび」は「いのちを結ぶ」もの、つまりは食の原点。それこそが朝ドラの主調低音にちがいない。あらためてそう思う。
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