今回は本に合わせて平仮名「きのこ」でいく。増野和彦『森のきのこを食卓へ――里山で、家で、おいしく楽しむ小規模栽培』(築地書館、2024年)=写真=を、図書館から借りて読んだ。
著者は長野県林業総合センターできのこの育種・栽培技術の開発に携わった専門家だ。
現在は日本きのこマイスター協会理事を務める、きのこ栽培のエキスパートの一人でもある。
家でもできるきのこ栽培のノウハウを公開した本だが、こちらはそこまでの意欲はない。
震災前に一度、シイタケ菌を打ち込んだ原木を3本買って、夏井川渓谷の隠居の林床に置いたことがある。
春と秋になると、それなりにシイタケが発生した。が、私には、ただそこに置いただけ、栽培したという実感はなかった。
震災と原発事故がおきると、いよいよきのこは撮って(採って、ではなく)、栽培物を買って食べるだけになった。
ただし、味噌汁に欠かせないナメコがどういうふうに栽培されるのかは知っておきたい。知れば知るほど、おいしく食べられる――そんな思いはある。増野さんの本もそのへんから始まっていた。
ナメコのほかにヤマブシタケ、クリタケなどの栽培方法が紹介されているが、ここではナメコに絞って書く。
元福島県林業試験場長庄司当さんの『ナメコのつくり方 原木栽培・オガクズ栽培』(1977年)に、面白いエピソードが紹介されている。
相馬地方の農家では、冬の農閑期、出稼ぎの男性に代わって、主婦たちがオガクズを利用したヒラタケの箱栽培を共同で始めた。
たまたまナメコの種菌をヒラタケ種菌と間違えて植菌したのがあり、しかも原木ナメコと同じものが大量に発生し、ヒラタケよりも高値で取引された。
この「偶然」からヒラタケとともにナメコ栽培も始めるようになったようだと、庄司さんは書いている。
私は、スーパーや道の駅へ行くと、必ず栽培ナメコを買う。最近は、傘ができたばかりの幼菌よりは、成菌に近い大きめのものを選ぶ。店の品ぞろえも幼菌だけでなく、傘の開きかけた成菌を並べるようになった。
たいていは豆腐とナメコの味噌汁にする。味噌汁にぬめりが溶け出して、ナメコだけでなく味噌汁も喉ごしがいい。
ぬめりの正体はムチン。食物繊維のひとつで、胃や鼻の粘膜を丈夫にするらしい。ナメコ自身の乾燥も防ぎ、防寒コートの役目も果たすという。
原発事故以来、いわきでも野生きのこは食べたり出荷したりできなくなった。それで、慣れ親しんでいた栽培ナメコがウラベニホテイシメジやタマゴタケ、ナラタケ、その他もろもろのきのこの舌ざわり・味・見た目の象徴になった。
大型ナメコにするには菌床栽培の培養期間の終わりに10日間ほど青色LEDを照射するそうだ。なるほど。ナメコの育て方がよくわかった。
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