2025年4月24日木曜日

「愉英雨」ってなに?

                               
   NHKの朝のニュースで気象予報士が「愉英雨」という言葉を取り上げていた。「ゆえいう」。なに、それ? 「花を楽しませる春の雨」のことだという。

4月23日は朝から雨の予報だった。「愉英雨」の言葉に刺激されて庭を見ると、ちょうど雨が降り出したところだった。

再開して間もない朝の習慣に従って、傘をさしながら庭で歯磨きをした。ヤブガラシの芽を2本摘んだあと、つぼみを膨らませていたエビネが一輪開花したことに気づく。

エビネにとってはまさに「愉英雨」だ。むろん、ほかの草木にも恵みの雨にはちがいない。せっかくだから、きょうは「愉英雨」の勉強をするか――。

まずは写真だ。歯ブラシを置いてカメラを首からぶら下げ、傘をさしながらエビネをパチリとやる=写真。

「愉英雨」は初めて聞く言葉だった。音読み言葉だから漢語? それとも和語? ネットで検索すると、お笑いタレントで漫画家の矢部太郎さんの文章が最初にあらわれた。

「愉英雨の英は花を意味して、春に咲く花々を愉(たの)しませ、喜ばせる雨のことです」。

なんと矢部太郎さんは気象予報士でもあったのだ。その知識を生かして、家庭画報に「雨のことば」を連載していた。

それはさておき、ネットからは「愉英雨」の原典も、出典も判然としなかった。こうなったら、わが家にある辞書に当たるしかない。

漢和辞典で「英」は「花」であることを確認する。さらに、高橋順子・文/佐藤秀明・写真『雨の名前』(小学館、2002年第6刷)に当たると、「愉英雨」があった。

 花を楽しませる春の雨というほかに、「俳句の季語『山笑う』は、樹々の固い芽がやわらかくほどけるさまを言いえて妙」というコメントが添えられていた。少しイメージが広がったが、それ以上はやはりわからない。

 この「愉英雨」と同じページに「養花雨(ようかう)」がある。花曇りのころに、春の花に養分を与えるように降る雨のことをいうのだとか。「育花雨(いくかう)」とは同意語、ともあった。

『雨の名前』から、漢字が3文字で音読みの春の雨の名前を拾うと――。「杏花雨(きょうかう)」。二十四節気のひとつ「清明」に当たる4月5日ごろ、つまりアンズの花が咲くころに降る雨のことだという。

「迎梅雨(げいばいう)」。陰暦3月の雨で、古く中国の江南で言われていた言葉だそうだ。

 意味は省略するが、「洗街雨(せんがいう)」「洗厨雨(せんちゅうう)」には古代中国の大帝についての記述がある。「杏花雨」にも、古代中国ではアンズの花が愛でられた、とある。

 それからの類推。「ゆえいう」という音の連なりは、日本語としてはなじまない。古語としてもそうだろう。

ということは、これもまた古代中国の文献かなにかに記録されている文字ではなかったか。しかし、手元にある漢和辞典には、「愉英雨」はなかった。

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