2025年4月19日土曜日

タネをまく動物

                                            
   庭の草木を眺めていて、ふと思うことがある。これも、あれも、植えた覚えはない。風がタネを運んで来たか、鳥が排泄したフンにタネが混じっていたか。

最初に不思議に思ったのはヤツデだった。天狗の内輪のような葉を広げた植物がある。なんでそこにあるのだろう。

それからもう何十年かたつ。あらためて庭のヤツデを数えたら、大小10本近くあった。3年前には7本だったから増殖中、というわけだ。

ある会合で、マンリョウも増えているという話になった。家に帰ってすぐ庭を見たら、芽生えから20センチほどに育ったものまで十数本あった。

ほかには、シュロとシロダモ(らしいもの)、トベラの幼木が各1本。これらは冬でも葉をつけたままだ。

人間が介在した木はわかる。カミサンが、夏井川渓谷の隠居の庭からカエデの実生を持ち帰り、庭に植えたのが、今ではそばの柿の木をおびやかすほどに生長した。

自然の芽生えにはまちがいなく鳥が介在している。主な「播種者(はしゅしゃ)」は、庭にひんぱんにやって来るヒヨドリだろう。

先日、図書館から『タネまく動物』(文一総合出版、2024年)=写真=を借りて読み、その推測が的外れではないことを知った。

小池伸介・北村俊平編著(きのしたちひろ・イラスト)で、サブタイトルは「体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで」と長い。

ヒヨドリの「種子散布」行動に絞って書く。ヒヨドリが食べる果実の種類は断トツの210種。2位のキジ119種、3位のツグミ117種をはるかに上回る。

高木のヤマザクラやミズキなどはもちろん、林床の低木、草本類の果実も丸飲みにする。

タネを運ぶ範囲は300メートル弱。果実を丸飲みしてからタネまじりの糞を排出するまで10~30分、行動圏は1・3~6・4ヘクタールで、タネを排泄するまでにはこの行動圏を端から端まで十分移動することができる。

直線距離では129~286メートル。つまり、食べて出すまでの最長距離は300メートル弱、ということになる。

石川県にある大学のキャンパスの事例では、トベラの果実(タネ)を食べて排泄するまでの距離は100~250メートルだった。

トベラは主に海岸に生息するが、公園などにも植えられる。海岸からわが家まではおよそ5キロ。

ヒヨドリの食餌(しょくじ)行動と排泄時間を考えれば、わが家の近くにある公園、あるいは民家の庭でトベラの赤い実を食べて、わが家の庭で排泄した、ということが考えられる。

 わが家があるのは、住宅が連なるとはいえ、もともとは旧街道沿いの畑だったところ。古くからの家は庭が広い。屋敷林もある。丘陵も近い。野鳥にとってはえさ場と休み場を兼ねたスポットが点々とある。

もともとは海岸にあったトベラが、ヒヨドリたちを介して点々と内陸に向かい、そのひとつがやがてわが庭に根を張った――そんな移動の物語が読み取れる。

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