4月20日の日曜日、夏井川渓谷の隠居で土いじりをしたあと、庭を一巡りする。
満開のシダレザクラの下では、背をかがめて地面に目を凝らした。春のキノコのアミガサタケが出ているかもしれない。
シダレザクラは隠居と地続きの庭、畑のそばの空きスペースにある。南側は石垣になっている。地下に張り巡らされた菌糸網は、それで北側のスペースに、半円状に広がっているはずだ。
去年(2024年)はアミガサタケの姿がなかった。枝葉が枝垂れる内側では、もう子実体(キノコ)は発生しないのかもしれない。
畑の脇には植えたハーブと雑草が茂り、草を刈るだけのスペースが広がる。菌糸網は、しょっちゅう掘り起こされる畑を避けて、そちらへ伸びているのではないか。
そう判断して、枝葉の外縁部に沿って進むと、あった。アミガサタケが点々と、9個も。
毎年4月は隠居へ行くたびに、アミガサタケを探す。今年は6日、13日と空振りだった。去年に続いて不作か――半ばあきらめかけていただけに、小躍りしたくなった。
「あった!」。思わず声に出すと、そばでヨモギを摘んでいたカミサンがびっくりして顔を上げた。「なにが?」「アミガサタケ!」
まずは地べたに這いつくばるようにしてカメラを向ける。そのあと収穫し、ヨモギにアミガサタケを添える=写真。それだけで満たされた気分になる。
東日本大震災に伴う原発事故の影響で、隠居の庭が全面除染の対象になった。事故から2年後の冬、庭の土を入れ替えた。
アミガサタケはもう出ないだろうと思っていたら、平成28(2016)年の春、シダレザクラの樹下に子実体が現れた。
両者はどうやら共生関係にあるらしい。除去された表土より深く菌糸が残っていたようだ。
発生を確認した4月の日曜日の記録が残っている。早い順からいうと、11日、19日、21日、22日、23日、24日で、だいたい下旬に集中している。今年は20日だから、例年並みの出現か。
この日、いわきキノコ同好会会長の冨田武子さんの告別式が執り行われた。前日、葬儀場に出向いて焼香し、遺影と対面した。
キノコ同好会に入ってざっと30年。一貫して冨田さんの「キノコ学」に触れてきた。アミガサタケを摘みながら、そのことを思い出した。
同好会の総会・勉強会は年末に行われる。勉強会はほとんど冨田さんが講師を務めた。日本特用林産振興会公認の「きのこアドバイザー」でもあった。
食毒を知って終わり、ではキノコのほんとうの魅力がわからない。色や形の面白さ、腐朽と共生という働き、地球の植物と菌類の切っても切れない関係などを学んで、自然観が変わったといってもいい。
さて、どうするか。アミガサタケを縦に二つに割ってバター炒めにする。コリコリして癖がない。夜、故人の冥福を祈りながら、ありがたくいただいた。
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