2010年7月16日金曜日
初ヒグラシ
セミの出現順は決まっている。ハルゼミやエゾハルゼミはさておき(確認していないので)、夏井川渓谷ではニイニイゼミ、ヒグラシ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシの順で声が聞かれる。
その渓谷で7月11日朝、今年初めてヒグラシの声を聞いた。ニイニイゼミはそれより少し前に耳にしている。曇天が「カナ、カナ」の声を誘ったのだろう。一度空気を震わせたあと、沈黙した。10時直前だった。夜明けと勘違いしたの、カナ。
それから3日後の夏井川渓谷。尾根が時折、霧に包まれていた=写真。ヒグラシの声はなかった。が、ニイニイゼミの声が、まるで耳鳴りのように響いていた。
私は一年中、右耳にニイニイゼミを飼っている。外側から聞こえるニイニイゼミか、耳の中に飼っているニイニイゼミか、判断がつかないときがある。そのくらいニイニイゼミはかぼそく静かだ。
松尾芭蕉が山寺(山形県・立石寺)で詠んだ「閑(しずか)さや岩にしみ入る蝉の声」は、場所を夏井川渓谷に替えても変わらないだろう。旧暦5月27日の立石寺登山。今年の暦でいえば、ざっと10日前。今年のような梅雨空が広がっていたのかもしれない。暗欝で蒸し暑い、人語もない。
そんな中で、ヒグラシの「カナカナ」が空気を切り裂くとしたら――。強く硬い声だから、岩に当たってはね返るだろう。が、かぼそい声のニイニイゼミだ。はね返らずにそのまま吸収されて岩の芯にまで到達する、そんなイメージがわく。
いや、芭蕉自身、耳鳴りの持ち主で、岩を耳に例える発想ができたのではないか。だから、「しみ入る」――などと、酔った頭は勝手に妄想をたくましくするのだった。
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