2010年7月22日木曜日

辻まことの墓の話


いわき地域学會の第263回市民講座が7月17日、いわき市文化センターで開かれた。元テレビ報道カメラマンの戸部健一さんが「辻さんのお墓――その作品と人生」と題して話した=写真

辻さんとは、「歴程」同人だった辻まこと(1913~75年)。詩人にして画家。父親は辻潤、母親は伊藤野枝で、野枝は関東大震災の直後、大杉栄と大杉の甥とともに虐殺される。

戸部さんはテレビ報道カメラマンになりたてのころ、東京・大森に下宿していた。近所に建具店があり、跡継ぎと親しくなった。両親は戸部さんと同じ福島県出身。跡継ぎの姉の良子さんは辻まことの妻。辻夫妻も近所に住んでいた。戸部さんは建具店の仕事場で二、三度、辻まこと夫妻を見かけた。それで、良子さんとも仲良くなった。

辻まことは草野心平と親しかった。川内村にも、天山文庫ができる前から心平と一緒に訪れている。昭和50(1975)年、辻まことが亡くなり、翌々年妻の良子さんも亡くなると、ひとり残された娘さんの意向で、川内村の長福寺に小さな自然石を利用した墓がつくられた。戸部さんは地域学會の巡検で、偶然、その墓の存在を知る。

市民講座では、そうしたいきさつやエピソードを語ったうえで「辻まことについて。真正面から研究してみたい、勉強したい」としめくくった。

私にとって、辻まことは山歩きの達人、山のエッセイストという印象が強い。『多摩川探検隊』(小学館ライブラリー)に街で生まれた一匹の犬を山に連れて行く話が出てくる。犬は夜の山におびえていた。それが、ひょんなことから野性を取り戻す。ヒマラヤよりウラヤマの一泊には空海の知慧がある、とうくだりに思わずうなった。

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