2010年11月30日火曜日

背戸峨廊から救急車が


夏井川の支流、江田川は別名「背戸峨廊(せどがろ)」。詩人の草野心平が地元の人間が呼び習わしていたのに漢字を当てた。以来、「背戸峨廊」が通り名になった。

近年、とみに中高年ハイカーの人気コースになっている。入渓者が増えれば事故も増える。11月6日には宮城県の女性がコース最奥部の滝つぼに転落死した。11月28日にも事故が起きた。

28日昼前、夏井川渓谷の無量庵の畑にいると、平消防署川前分遣所の消防車がサイレンを鳴らして江田方面へ下って行った。江田方面から救急車が上がってくることはあるが、消防車が下って行くのは、無量庵では初めての経験だ。常備消防だから訓練ではないな、江田あたりで火事でもあったのかな――そんなことをちらりと思った。

午後1時半にはカミサンの方に用事がある。昼過ぎに無量庵を離れ、磐越東線の江田駅近く、背戸峨廊入り口付近でナガイモや曲がりネギ、白菜などを直売している小野町のNさんに会う。むろん、それらを買うためだ。

Nさんは紅葉シーズンになると、臨時に直売所を開く。曲がりネギは「三春ネギ」。この1年の無事を確かめあいながら、袋にいっぱい、1,000円分のネギを買い、白菜を買ったら、小ぶりのナガイモをおまけにくれた。

さあ、帰ろうとなったときに、救急車のサイレンが山あいに響き始めた。幹線道路の県道に沿った音の遠近感ではない。山陰から迫ってくる。だんだん音が大きくなる。これは背戸峨廊だなと思った直後に、救急車が現れた=写真。消防車が急行したのは、これだったか。

翌日の福島民報に小さな記事が載った。午前11時ごろ、「トッカケの滝」付近で茨城県の60代の女性が転倒し、けがをした、との通報がいわき市消防本部にあった。その救助のためにレスキュー隊と救急車が駆けつけたのだった。さいわい命に別状はなかったらしい。コース途中の、いやとっかかりの滝(「トッカケの滝」)あたりだから、まだよかった。

背戸峨廊は若者にも手ごわい。年を取るとますます手ごわくなる。だから、ちょっとのぞいてみるか――と思っても、私は谷底のコースではなく、楽な山側の遊歩道を「トッカケの滝」まで行って引き返す。その先での事故は、いくらレスキュー隊員でも時間がかかる。「背戸峨廊」はそれだけ奥が深く危険な場所だということを知っておきたい。

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