2011年5月21日土曜日
いねむり先生
寝床に入って伊集院静の『いねむり先生』を読み始め、徹夜をしてしまい、朝飯を食べたあとも読み続けて、昼前に読了した。
“在宅ワーク”だから自分で時間を調整できるといっても、徹夜をしてまで本を読むようなことはめったにない。「3・11」以後、これほど熱中して読んだ本はなかった。いや、熱中できるような心理状態ではなかった。
「先生」(作家の色川武大=阿佐田哲也)と、30代半ばの「サブロー」(伊集院静)の、「先生」が亡くなるまでの2年間の交流物語である。麻雀は4人でやる。そのテーブルを囲むように、小説には「Kさん」(黒鉄ヒロシ)と「Iさん」(井上陽水)が登場する。「Kさん」が「先生」を紹介してくれた。
「サブロー」は女優である妻を亡くして酒浸りの日々を送る。心が壊れかかっていた。同じ幻覚に襲われるようにもなった。地平線の向こうから幌馬車がやって来て、その群れに囲まれてしまう。「ボク」はうつぶせて観念するしかなくなる。
ある日、競輪からの帰り道、「サブロー」の厄介事を聞いた「先生」が、「実は私もサブロー君と似た幻覚をずっとやってきてるんだ」と告げる。機関車が向こうから驀進してきて轢死させようとする。「もう大逃亡ですよ。しかし最終的には進退極まるんです」。対処法は、そんな夢に対して「知らん振り」を決め込むことだという。
私も物心ついたころから、「先生」と同じ夢を繰り返し見てきた。そのせいか、このくだりが私には『いねむり先生』の白眉に思える。
地平線の向こうから線路がこちらに向かって伸びている。突然、その映像が夢に現れる。けし粒ほどだった機関車が猛スピードで直進し、のしかかるほどに大きくなって、<ああ、轢き殺される>と思ったところで目が覚める。心が震え、冷や汗をかく。
小2のときの大火事体験が尾を引いているのか――。成人してから思ったものだが、ほんとうのことはわからない。結婚してからはその夢を見なくなった。
さて、この本は5月から再開した移動図書館から借りた。「東日本大震災」でラトブのいわき総合図書館がダメージを受け、閉館している。月に一回、わが家のとなりにやって来る移動図書館「いわき号」=写真=で図書館の雰囲気を味わおうと、書棚の背表紙を眺め続けて選んだ一冊がこれだった。
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