体が酸味を求めているのかもしれない。キュウリで言えば、緑色のままの浅漬けより飴色の古漬けを、というふうに。梅雨入り前は浅漬けキュウリをざっくり切って食べた。が、梅雨後半、気温が上がるにつれて古漬けキュウリを細かく切って食べるようになった=写真。
ぬか漬けはそれ自体、浅漬けだ。キュウリのほかにカブ、大根、ニンジン、ナスなどをぬか床に入れる。ニンジンは少し時間がかかる。が、キュウリや大根は朝入れて、夕方には取り出すことができる。
1年を夏と冬の二つに分ければ、冬は白菜漬け、夏はぬか漬けだ。一年中、漬物を欠かさない。3・11前は、夏井川溪谷の無量庵で三春ネギのほかに毎年、キュウリを栽培した。ぬか漬けと保存用(塩漬け=古漬け)にするためだ。
ぬか床は生きものだ。昨年3月、フクイチの原発建屋が連続して爆発し、9日ほど孫たちを連れて避難した。帰ってきてぬか床を見たら、アオカビが生えていた。表面をかきとるだけで済んだが、浜通りのぬか床は去年、かなり死んだにちがいない――暗澹たる思いになった。
なにがなんでもぬか床は守る――。大山のぶ代さんは女優志望の貧乏時代、亡母のぬか床に助けられた。夏目漱石の孫の家のぬか床は江戸時代から続くものだ。
双葉郡の人たちは、それこそ「着の身着のまま」避難した。今も避難したままの人がほとんどだ。
なかに、ぬか床を持ちだした人がいる。昨年5月31日付で書いたことだが、浪江から東京へ避難する途中、いわきのいとこにぬか床を託した。「祖母の、祖母の、祖母の代から伝わるぬか床」だという。原発事故はこうした食文化をも分断・破壊する。それが許せない。
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