2014年12月21日日曜日

渓谷の冬の色

 夏井川渓谷はすっかり冬の眠りに入った。大正13(1924)年の初冬、この地を訪れた随筆家大町桂月(1869~1925年)は、「散り果てヽ枯木ばかりと思ひしを日入れて見ゆる谷のもみぢ葉」と詠んだ。歌碑が「籠場の滝」のそばに立つ。その「もみぢ葉」も散りはてた。

 森の小道はすっかり落ち葉のじゅうたんで覆われた。堆肥の原料には事欠かない。とはいえ、溪谷の住民が調達するのは道路沿いの落ち葉だ。この時期、軽トラに老夫婦が落ち葉を積み込んでいる姿をよく見かけた。

 平の街の緑地公園でも、初冬にはケヤキの枯れ葉が雨のように降る。そばの住民がそれをごみ袋に詰めて、「燃えるごみ」として出す。「燃やすのはもったいない、堆肥にするから」と一部をもらい受けて、夏井川渓谷の隠居(無量庵)へ運んだものだ。今は放射性物質を集めるだけだから、森の落ち葉を堆肥にすることはない。

 モミと松の緑のほかは、森から色が消えた。確かにそうだが、隠居の隣の空き地(東北電力の社宅跡)に一本、柿の木があって、今も真っ赤な実をつけている=写真。普通の柿の実よりは小さいが、豆柿よりは大きい。豆柿でないことは、熟しても黒くならないことでわかる。

 写真を拡大すると、実の表面にへこみのあるものが見られる。熟して自然に“干し柿”化しつつあるらしい。野鳥に突つかれたと思われる実は1個だけ。甘みを増すごとにヒヨドリが寄ってきて、やがて実が姿を消す――ということになるのだろう。柿の実が消えると、渓谷も真冬になる。

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