夏井川渓谷の小集落・牛小川。日曜日の朝、隠居に着くといきなり花火の音がした。パン、パン! 庭先で打ち上げる子ども用の花火だ。どの家で打ち上げたかはわかっている。以前、当主に聞いたら、カラスが家の中に入り込んでいたずらをする、それで追い払うのに花火を使うのだと言っていた。また入り込んだか。
1週間後、用があって当主を訪ねた。留守だった。母親が住む隣の隠居にも人の気配はなかった。隠居の玄関が開いていた。玄関から庭先にかけて、折りたたまれたレジ袋やごみ袋などが散乱している。これか! カラスが玄関から中に入り込んでモノをくわえ、外に持ち出したのはいいが、食べ物ではないのでそのまま放置したのだろう。近くの電柱にハシボソガラスが3羽止まっていた。
いつもの癖でカメラを肩から提げていた。“証拠写真”を撮ったが、いくらなんでも当主の許可なしに公開するワケにはいかない。代わりに、渓谷の上空を下流から上流へと飛んでいく、カラスのように黒いカワウを載せる=写真。
渓谷に旅館がある(営業は休んでいるようだ)。釣り堀を併設し、イワナやニジマス、コイ料理を提供した。この釣り堀を狙ってカワウやアオサギなどが現れた。ヤマセミもやって来た。
アオサギはときどき、赤松やモミの木の枝に止まっていた。「松に鶴」の花札の絵柄の影響か、大きな鳥が木に止まっていると、街場から来た行楽客は「ツル!」と騒ぐ。ツルは湿原の鳥で、木に止まることはない。潜水が得意なカワウは、たまに渓流の岩場で羽を休めていた。警戒心が強く、人の姿を見るとすぐ飛び立つ。このごろは岩場で日光浴をしている姿を見ない。
普通、アオサギやカワウは田園地帯や平地の川でえさをあさっている。なかで目先の利く個体が山里の釣り堀に現れた。
生ごみをあさるカラスは、牛小川ではとりわけ人間を小バカにしているのだ、という。街のカラスは玄関や茶の間の戸が開いていても家の中に入り込むことはない。牛小川のハシボソガラスは平気で入り込む。そこが違う。
生ごみをあさるカラスは、牛小川ではとりわけ人間を小バカにしているのだ、という。街のカラスは玄関や茶の間の戸が開いていても家の中に入り込むことはない。牛小川のハシボソガラスは平気で入り込む。そこが違う。
渓谷の暮らしは自然の恩恵に支えられているが、リスクも少なくない。田畑を荒らすイノシシ、屋根裏のハクビシン、軒下に営巣するスズメバチ……。落石はしょっちゅうだし、土石流の危険地帯でもある。自然と人間の関係が濃密な山里ならではの“攻防戦”だ。
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