「あれっ、もう市長選?」。家の前の道路を、選挙カーが名前を連呼しながら通り過ぎた。「清水」でも「渡辺」でも「宇佐美」でもない。二、三度往来するうちに、「ミヤモト○×」「ヤマモト○×」と言っていることがわかった。
双葉郡富岡町の町長選が先週の木曜日(7月20日)、告示された。今度の日曜日、30日に投・開票される。立候補したのは、現職の宮本皓一氏と新人の山本育男氏。
富岡町長選がいわき市でも行われているワケは単純だ。有権者が多く避難しているからだ。いわきの夕刊紙いわき民報も記事にした=写真。別の新聞によれば、選挙期間は通常5日だが、町外に住む有権者を考慮して倍の10日間にした。ちなみに、いわき市長選は9月3日告示、同10日投・開票で行われる。
富岡町は東日本大震災に伴う原発事故で全町避難を余儀なくされた。6年余がたった今は、帰還困難区域を除いて避難指示区域が解除された。役場機能が一部、町の本庁舎に戻ったとはいえ、町民の帰還はそんなに進んでいない。
町のデータによると、住民登録者数は今年(2017年)5月1日現在、1万3441人。町内居住者128人を含めて、1万503人が福島県内に分散・居住している。県外にも2938人が住む。県内では特に、同じ浜通り南部のいわき市に6090人が集中している。
わが神谷(かべや)地区にも、いったん会津その他へ避難したあと、故郷に近く、気候・風土が似ているからという理由で、戸建て住宅やアパートを見つけて移ってきた町民がいる。シャプラニール=市民による海外協力の会が開設・運営した交流スペース「ぶらっと」で知り合った富岡町民も少なくない。
応急仮設住宅や災害公営住宅はともかく、“みなし仮設”や土地を買って家を建てた人たちは、いわき市民の間に溶け込み、あるいは塀を立てて暮らしている。
いわき市民のなかには、「なんでよその町の選挙カーが……」といぶかる人もいるに違いない。4年前もそうだった。4年後もそうなるのか。いや、それで終わらないかもしれない――などと、選挙カーが遠慮がちに連呼しながら通るたびに思う。原発事故の罪深さがこんなところにもあらわれている。
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