まずは四字熟語「画竜点睛」のおさらい――。意味を再確認するためにネットで調べたら、注意すべき点が二つあることを知った。
「画竜」は「がりょう」と読む。「睛」は天気の「晴」ではない。右側の下が「月」ではなく「円」である。なるほど、そこまでは注意が届かなかった。
ということで本題。わが家では夏を除いてけんちん汁(豚汁)を食べる。晩秋から春先までは、特に回数が多くなる。
豚肉にサトイモないしジャガイモ、そしてニンジン、ゴボウ、豆腐、こんにゃく、ネギ。ほかにナメコやマイタケ(いずれも栽培もの)が入る。東北地方では、醤油ではなく味噌仕立てが普通だ。
10月16日の夜、久しぶりにけんちん汁が出てきた。「ネギを切らしたの」。隣に直売所がある。そこにも売っていなかったという。ネギの入らないけんちん汁は初めてだ。
けんちん汁は晩酌のおかずでもある。朝の味噌汁のお椀よりは大きめのお椀に入って出てくる。それを2杯。チビリチビリやっていると、ほどなくお椀がカラになる。
ネギなしのけんちん汁はしかし、どうも落ち着かない。いつもだと小口切りか斜め薄切りのネギが浮いている。これがない。味も何か一つ物足りない。ほのかな香りと甘みを欠いている。風味は七味だけだ。
そう、ことわざでいえば「画竜点睛を欠く」である。「画竜点睛」の意味は、「物事を仕上げるために必要な最後の仕上げ」、あるいは「ほんのわずかな部分に手を加えることで全体が引き立つこと」だという。
けんちん汁の場合はネギがこれに当たる。コンニャクやジャガイモが切れても、「画竜点睛を欠く」という気分にはならない。しかし、ネギだけは別である。
カミサンもそのことは重々承知の上だったようで、翌日、アッシー君を務めてマチへ行った際、スーパーに寄ってネギを買った。
けんちん汁は、ある限り毎食出る。翌日の夕方、今度はネギ入りのけんちん汁が出た=写真。ナメコのほかに、大熊産のアラゲキクラゲも入っていた。
見た目からして、いつものけんちん汁である。前夜と違って違和感はまったくない。心穏やかでいられる。口に入れるとネギの軟らかさが加わって、舌が喜んだ。
やはり、ネギは点睛である。最後にネギを加えないとけんちん汁は完成しない。逆からいえば、ネギを欠いたけんちん汁は未完成の半食品だ。
冷ややっこの薬味や卵焼きの具にも利用される、という意味では、ネギは食卓では名脇役だろう。
しかし、ネギがないとけんちん汁が仕上がらないとなれば、ネギは「もう一つの主役」である。
今年(2025年)の春は苗づくりに失敗したが、渓谷の隠居でネギだけは栽培を続ける。そう決めている人間としてはちょっとひいき目に言ってみた。
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