2018年9月2日日曜日

「難民になったねこ」

 人間だけではない、猫もまた災害時には被災者になり、避難者になる。わが家猫の例でも2回あった。最初は私が小学2年生になったばかりの昭和31(1956)年4月、2回目は平成23(2011)年3月だ。
 62年前、阿武隈の山里、常葉町(現田村市常葉町)が吹き荒れる西風にあおられて大火事になった。家族はバラバラに避難した。家畜、ペットも一緒に避難を――という余裕はなかった。ヤギ、牛、羊、犬、猫……。焼け死んだ動物は人間(1人)より多かったのではないか。

家が焼け落ちたあと、歩いて5分ほどの親戚の家に身を寄せた。飼い猫の「ミケ」は焼け死んだかもしれない――大火事から1週間、あきらめていたところへ、しかもその親戚の家(石屋)の作業場のすみで、腹ペコでいるところを発見された。生きていただけでもすごいのに、飼い主一家を追って、そこへたどり着いた。これを奇跡といわずしてなんといおう。

 7年前の東日本大震災とそれに伴う原発事故では、9日間ほど避難した。飼い猫3匹はしかたなく家に置いた。古株の茶トラは老衰が始まっていた。後ろ足を引きずって歩く。排便もきちんとできなくなっていた。衰弱して息絶え、ミイラ化しているのではないか。心配しながら帰宅すると、ミイラどころか、4本の足でちゃんと歩いていた。飼い主が留守の間に野性を取り戻したのだ。これも奇跡といっていいだろう。

 なぜこの二つを思い出したかというと、図書館の新着絵本、『難民になったねこ クンクーシュ』(かもがわ出版)を借りて読んだからだ。奇跡のなかの奇跡、といってもいい実話だ。

内戦下のイラクから、一家が飼い猫のクンクーシュとともに避難し、ヨーロッパを目指す。途中、ギリシャ・レスボス島で飼い猫とはぐれる。難民支援のボランティアとして島へ来ていた女性が「難民のねこ」に気づき、飼い主一家と再会させるために動き出す。やがてインターネットとSNSのフェイスブックを介して、一家がノルウェーにいることがわかり、何人もの手を経て、一家と猫が再会する――。

「およそ4か月のあいだ、5000キロも旅し、やさしい人びとに出会いました。そしてついに、飼い主のもとに帰ったのです」「この話は、難民家族とねこの奇跡的な再会のニュースとして、世界中に伝えられました」

自然災害、戦争、原発事故……。人間に限らず、動物、とりわけペットたちも、突然、生と死の境目に立たされる。クンクーシュの5000キロの旅は、そのなかでもまれな救いの物語だ。再会からおよそ3カ月後、クンクーシュはウイルスによる病気で死ぬ。が、最後に「しあわせな日々」を取り戻した。

1 件のコメント:

clarice さんのコメント...

はじめまして。この本を授業で読み比べをしています。
まいごのねこ」という、ボランティア当事者のエイミーとダグが書いた本もあるのですよ。二冊の本の書かれている部分と省かれている部分を比較したり、かきぶりを比較しています。これらの本の強調したいところ(全体のテーマは難民ですが)も違う、視点も違うと、生徒たちは読み解いています。是非どうぞ。