2010年10月11日月曜日
草野心平と石展
いわき市立草野心平記念文学館で企画展「草野心平と石」が始まった(2011年1月30日まで)。心平の石好きは有名だが、世にいう水石愛好家ではない。そこが面白い。詩人は人間も自然も等距離でとらえる――そう考える人間には、この企画展は異質だが興味深いものだ。
石も、植物も、動物も、人間も同じ――。同文学館の粟津則雄館長がかつて評した「対象との共生感」、それこそが心平の詩の本質でもあるから。
「草野心平のもっとも本質的な特質のひとつは、ひとりひとりの人間の具体的な生への直視である」と粟津館長は言う。その直視は人間にとどまらない。動物も、植物も、石のような鉱物も、さらには風景も、同じように直視する。「彼とそれらの対象とのかかわりをつらぬいているのは、ある深く生き生きとした共生感とでも言うべきものだ」
その象徴的な作品が、次の短詩「石」だと私は思う。
雨に濡れて。
独り。
石がいた。
億年を蔵して。
にぶいひかりの。
もやのなかに。
「独り。/石がいた。」。「一つ」ではない「独り」、「あった」ではない「いた」。石もまた人間と同じ存在だ。それが、目の前に億年という時間を内蔵して存在している。
企画展のリーフレット=写真=に粟津館長はこう書いた。「眼前の姿への凝視とそれを生み出しそれを支えて来たものへの透視は、詩人草野心平を形作る二つの本質的要素ですが、草野さんと石とのかかわりには、それが純粋かつ端的に立ち現われていると言っていいでしょう」。直視のなかの二つの要素、凝視と透視が6行の「石」には凝縮されている。
企画展では石にまつわる心平の作品のほか、心平と鉱物学者桜井欽一博士との交流、冒険家植村直己から贈られた石、心平と故郷いわきの石、小玉石などの視点から、心平と石のかかわりを紹介している。岩石の内部へ、芯へと想像力を深くくぐらせる展覧会でもある。
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