2016年9月3日土曜日

坂の多い港町

 日露首脳会談がきのう(9月2日)、ロシア極東のウラジオストクで開かれた――というので、1カ月前に訪れた「坂の多い港町」を思い出した。
 同級生4人で8月2~7日、ロシアの島(サハリン)とシベリア大陸(ウラジオストク・ナホトカ)を巡った。日本で2年間、日本語の勉強をしたガイドのアレクサンダーさんによると、ウラジオストクは長崎に似ている。市街を車で移動しながら、なるほど坂だらけだ――と思った瞬間、なぜか司馬遼太郎の小説のタイトル「坂の上の雲」が思い浮かんだ。

 小説の「坂」は右肩上がりで進む日本の近代化の象徴だろうが、ウラジオストクでは現実に「坂の上の雲」が見られる。そこから日露戦争に連想が及んだのかもしれない。

 政治的なことはよくわからないが、下世話なところでは首脳会談に大いに興味がわいた。どこで会談したのか、首相一行はどこのホテルに泊まったのか。

 ウラジオで最高のホテルといわれているのは「ヒュンダイ(現代)」らしい。7月30日~8月10日、当地でオペラやバレエ、コンサートの「極東国際フェスティバル」が開かれた。「ヒュンダイ」の宿泊は難しいだろうということで、旅行会社が次のランクのホテルを押さえた。

 ウラジオは札幌と同緯度にある。冬は寒さが厳しいにちがいない。夏は? たまたまかどうかはともかく、気温が30度を超えた。ホテルの部屋には扇風機しかない=写真。扇風機をかけても夜は汗ばんで寝苦しかった。ガイド氏に皮肉をいうと、「ウラジオのホテルには、今までエアコンは必要なかった、地球温暖化の影響だ」という。そうかもしれないが、その対応が扇風機止まりというのはお粗末すぎないか。

 日本へ帰って、司馬遼太郎の『ロシアについて――北方の原形』(文藝春秋)を読む。ロシアにとってのシベリアは、本質的にはかつぎ続ける重さに耐えなければならないほど「大きな陸地」だ。シベリアが存在するかぎり、ロシアの日本への関心は「シベリアの産物を日本に売り、日本から食糧を買い、シベリア開発を容易なものにしたいというところにあ」るという。
 
 一方で、司馬さんはこうもいう。日本人の感覚は日露戦争のあと変質した。「おびえが倨傲(きょごう)にかわった。謙虚も影をひそめた。(中略)大正時代の日本は、それまでの日本の器量では決してやらなかったふたつのことをやった」。一つは「対華21か条の要求」、もう一つは「シベリア出兵」。
 
「理由もなく他国に押し入り、その国の領土を占領し、その国のひとびとを殺傷するなどというのは、まともな国のやることだろうか」、やることではないと言外に司馬さんはいう。「北方の原形」を基礎において今度の首脳会談を読み解くのもおもしろいか。

 これは蛇足。ウラジオストクのすぐ西は中国、南西は朝鮮半島だ。中国や韓国からの観光客が多かった。ホテルの朝食会場でも韓国からの団体さんと一緒になった。わりと静かなので韓国とわかった。それともう一つ。夜、ホテルの部屋に「マッサージはどうですか」といういかがわしい電話がかかってきた。「ノーサンキュー」で通した。

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