おどかしてごめん、ごめん、ごめん――。そう舌頭で謝りながら、車で“スーパー林道”を駆け上り駆け下った。
ところどころでキジバトがえさをついばんでいた。キジバトにとっては、突然、うなり声をあげて疾走してくる暴れ牛のような鉄のかたまりだ。両側の木の間にそれればいいものを、前へ前へとまっすぐ飛んでいく。その繰り返し。肝を冷やしたにちがいない。
夏井川渓谷のいわき市小川町上小川字牛小川と、左岸の神楽山(かぐらやま=標高808メートル)の裾をまくようにして、同市川前町下桶売字荻(おぎ)を結ぶ広域基幹林道上高部線を、地元の人は半分皮肉を込めて“スーパー林道”と呼ぶ。幅員は5メートル、延長は14キロ。おととい(10月19日)朝、いわき市から川内村・上川内へ行くのに最短コースとして利用した。
1カ月前の敬老の日(9月18日)にも、田村市常葉町にある実家からの帰り、都路―川内経由で“スーパー林道”を利用した。珍しく対向車両があった。人もいた。山の手入れが行われていた。
具体的には「ふくしま森林再生(県営林)事業上高部地区」で、期間は10月31日まで。間伐などの森林整備と、放射性物質の動態に応じた表土流出防止柵などの対策を一体的に行う、と福島県のホームページにあった。
すでに事業は完了していた。道端の草がきれいに刈り払われ、表土流出防止の柵(間伐材を利用)が設けられていた=写真。
しかし、整備事業エリアを過ぎると、道がいきなり草で狭くなる。牛小川寄り、川前・外門(ともん)の集落に近づいたとき、道をすばやく横切る小動物がいた。ずんぐりした体形。子どものイノシシだった。3匹か4匹か、ちょっとはっきりしなかったが、曇雨天のうえに杉林の中なので薄暗い、こんなところには出るかもしれない――予想していたとおりになった。
人間界と自然界が混然一体となった山里ならではのできごとだ。そういえば、朝、川内へ向かっているとき、ケータイが鳴った。若い元同僚からだった。いわき市の「好間でイノシシを捕ります、作家吉野せいの住んでいた家はどの辺でしたっけ?」「好間中学校への道を上がって、ちょっと行って左折したどんづまり、(夫・義也=三野混沌の)詩碑があるところ」。彼は現役の記者だが、最近、わな猟の免許を取った。師匠格の人と一緒に菊竹山中にわなを仕掛けるのだろうか。
曇雨天だと、イノシシは昼も動きまわる? いや、原発震災以降、イノシシ猟が激減した。人間が避難した双葉郡内はすっかり野生の王国と化した。日中から動き回る習性を取り戻しただけなのかもしれない。
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