いわき市の中心市街地、平の本町通りは五町目・石川紋店跡に、若い仲間が経営する古書店が“オープン”した。
オープンにチョンチョンを付けたのにはワケがある。すでに10年以上前、ネット古書店・じゃんがら堂を開業し、阿武隈書房と名前を変えてからは同紋店跡を拠点に、パートの従業員を何人も抱えるまでに成長した(小名浜でリアル古書店を開いていた「前史」もあった)。特に、東日本大震災後は蔵の解体や断捨離で、あちこちから声がかかる。
夜の店頭の明かり=写真左=も平七夕まつりと関係がある。昭和初期まで、本町通りでは盆に「松焚き」が行われた。本町通りが舗装化されると、その保護のために松焚きが中止になる。松焚きに代わる集客イベントとして、昭和9年、今の平七夕まつりがスタートした。
きのう(8月17日)、初めて店をのぞいた=写真下。スペースは12畳(6畳二間)くらいだろうか。そこに木の香りただよう本棚が並ぶ。
本人は買い付けその他に飛び回っているので、店にはいなかったが、好みが出ていた。硬派の本が多い。値段もいい。なにかを調べたり、研究したりしている市民には、背表紙をながめる楽しみができた。
リアルな空間だけに、思わぬ発見もある。「開店祝い」になにか1冊をとながめていたら、『ある小さなスズメの記録――人を慰め、愛し、叱った誇り高きクラレンスの生涯』(文藝春秋、2010年)が目に留まった。作者はクレア・キップス。知らない。
が、訳者が梨木香歩だった。ナチュラリストにはたまらない小説を書く。『西の魔女が死んだ』は映画になった。『沼地のある森を抜けて』は「――その昔、駆け落ち同然に故郷の島を出た私たちの祖父母が、ただ一つ持って出たもの、それがこのぬか床。戦争中、空襲警報の鳴り響く中、私の母は何よりも最初にこのぬか床を持って家を飛び出したとか」 というくだりがうれしい“糠床小説”だ。
植物に詳しい彼女の作品に興味があるのと、値段が300円と手ごろだったので、迷わずレジに持って行った。
古書店が姿を消す中、ネットではなくリアル古書店が街にオープンするのは、地方都市では奇跡に近いのではないか。通りのシャッターがひとつ、ともかくも開いたのだ。新聞、テレビ、どこが最初にかぎつけるか。地元紙なら1面トップのニュースになる。
2 件のコメント:
田舎の古書店・・・同級生が被災地楢葉町に数年前古書店をオープン。本人は隠居しましたが、息子夫婦が頑張っています。ご一報まで。
近所にあった古本屋なので、知ってます。
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