「くちばしの黄色い鳥がいる!」。夏井川渓谷にある隠居の庭で、カミサンが声を上げた。
玄関の前には車を止めるスペースがある。その周りにカエデやヤナギなどの成木が生えている。そのうちの1本に「黄色いくちばしの鳥」が止まっていた。
よく見ると、ヒヨドリ=写真(資料:撮影は2011年2月)=だった。ヒヨドリは、くちばしは黒っぽい。
「黄色いくちばし」と誤認したのは、ヒヨドリがとりついていた幹の傷のようだ。100円玉くらいの大きさで、樹皮がはがれている。その内側の皮とヒヨドリがつながって「黄色いくちばし」に見えたのだろう。
しかし、なぜ幹に傷が? その木はたぶんカエデ。小さな傷から樹液がしみ出ているために、下の樹皮が黒くぬれていた。
キツツキでもあるまいし、ヒヨドリがそこにずっといるということは……。樹液をなめていたにちがいない。
帰宅したあと、「ヒヨドリ 樹液」で検索すると、似たような傷口と、ヒヨドリが樹液をなめている写真に出合った。
そうか、そうだったのか。ヒヨドリがキツツキみたいに、幹にとりついていた理由がわかった。
これは北国の例。まだ花の少ない早春は、アカゲラが傷つけ、しみ出てきた樹液のおこぼれをいただく鳥がいる。ヒヨドリだけではない、シジュウカラやエナガもそうだという。
なるほど、鳥たちは鳥たちでつながっているのだ。隠居の庭のカエデの幹に傷をつけたのは、どんなキツツキだろう。コゲラは姿を見たことがあるが、アカゲラはまだない。いずれにしてもキツツキには違いない。
子どもがまだ小さかったころ、夜の石森山(平)へ「樹液酒場」を見に行ったことがある。昼間はオオムラサキ・スズメバチ、夜はカブトムシ・クワガタがクヌギの樹液をなめていた。
その樹液を昼間、なめてみたことがある。わりと冷たくて甘酸っぱかった。これが虫たちの滋養源かと、妙に納得したものだった。
最近は、春、川内村の「獏原人村」から「シラカバ水」が届く。シラカバの樹液を口にした瞬間は、水と変わらない。が、あとからほのかな甘みが広がった。春先限定の、貴重な森の恵みだ。
焼酎の「シラカバ水割り」も試してみた。まず焼酎を口に含む。次に、チェイサーとしてシラカバ水を流し込む。なんというか、シラカバ水の甘い後味が際立つように感じられた。春の新しい楽しみ方には違いない。
カエデの樹液は、人間の世界では「メープルシロップ」として珍重される。それを最初に発見したのは、人間ではない、アカゲラ、そしてそれに続くほかの鳥たちだった?
むろん、ヒヨドリのふるまいから妄想を膨らませただけだが、その妄想自体が楽しいのはなぜだろう。
それともう一つ。最低気温が氷点を下回ると樹液の流出は止まるそうだ。樹液で幹がぬれていたということは、春が兆してきた証拠だろう。
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