2025年6月26日木曜日

梅雨とマメダンゴ

 
                                 

梅雨といえば雨傘ではなく、珍味のマメダンゴだ=写真(2017年6月25日撮影)。大きさは大人の親指と小指の中間ぐらいがいい。

阿武隈高地の山里では、梅雨に入るとこのツチグリの幼菌(方言名マメダンゴ)を土中から掘り取り、炊き込みご飯や汁の実にする。

いわき民報に「あぶくま、星の降る庭」と題するコラムを書いていたとき、マメダンゴを取り上げた。この文章が後日、専門家の目に止まった。

日本きのこセンターが発行している月刊誌に「菌蕈(きんじん)」がある。毎回、表紙のキノコの写真を解説している同センター菌蕈研究所特別研究員・長澤栄史さんが、2016年7月号でツチグリを取り上げた。

 そのなかでいわき民報掲載の拙文を紹介していた。「『梅雨期が旬、阿武隈高地では味噌汁が定番、焚き込みご飯も良い。内部が“白あん”が良く、“黒あん、白黒あん”は駄目』とある。白あん、黒あんとはうまい表現である」

 胞子が形成されると内部は黒くなる。つまり“黒あん”。そうなると食べられない。“白あん”だけを集めることになる。

 長澤さんは私も使っている『きのこ図鑑』の共著者だった。キノコ研究のプロ中のプロである。専門家から見ても、阿武隈の住民のマメダンゴ好きは珍しいものだったらしい。

 マツタケのように日本全国どこでも高級菌として知られているキノコと違って、福島県の阿武隈エリアを除けば、「なに、それ?」なのだろう。

そんなマイナーな食材だから、新聞記事になることはまずない――そう思っていたら、先日、県紙が取り上げていた。

同じ阿武隈エリアの平田村で、若い人が自分の管理する村内の山の斜面で、土を定期的に耕したり、草を刈ったりしてマメダンゴが発生しやすい環境づくりを維持している。6月14日には、調査の一環で研究者が現地を訪れた、という内容だった。

実は、夏井川渓谷の隠居の庭でもマメダンゴが採れる。最初に気づいたのは震災前だった。

車を止めたらツチグリの残骸が目に入った。外皮が星形に裂け、中央の袋が胞子を放出してひしゃげていた。

マメダンゴが埋まっているかもしれない。注意して歩くと、靴の下でかすかに「プチッ」という音がした。

マメダンゴを踏んだために外皮が音を出して裂けたのにちがいない。かがんでよく見ると、コケの間からマメダンゴがのぞいていた。

以来、原発事故で庭の土を入れ替えたあとも、庭でマメダンゴ採りを続け、炊き込みご飯と味噌汁を楽しんできた。

しかし、いつも決まって採れるというわけではない。ここ2年はさっぱりだ。県紙の記事にも発生は5年くらいで終わるとあったから、隠居の庭でもピークを過ぎたのだろう。

すっかりあきらめていたマメダンゴだが、新聞記事を読んだら、新ジャガとキヌサヤとマメダンゴの味噌汁が頭に浮かんだ。もちろん。炊き込みご飯も。今が旬の阿武隈のふるさとの味ではある。

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