紙の黄ばんだ雑誌がめくられた状態で、ポンと座卓のわきの資料の上に置かれてあった=写真。
「長嶋をめぐる友情」と、縦に大きく見出しが付いている。上には矢印の黒地に白抜きで「孤独の黄金児」。その右わきには前文が載る。
「グランドの英雄・長嶋の悩みはなにか? 人気のまと、ゴールデン・ボーイ長嶋をめぐる友情と、ねたみ……‼」
ゴールデン・ボーイ? 友情とねたみ? 巨人軍に入団して2年目の長嶋茂雄を俎上(そじょう)にのせて、なにやら「友情」の観点から筆を進めている。
まずは雑誌の正体から。表紙には「女学生の友」夏の増刊号、奥付には昭和34年8月15日発行、小学館とある。
西暦でいえば1959年。66年前の雑誌だ。カミサンは高校1年生。「女学生の友」を毎月購読していたという。
どこかにしまっていたのが出てきたのだろう。「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さんが今年(2025年)6月3日、89歳で亡くなった。あこがれの人だった。そのことをブログに書いたのを覚えていたようだ。
――私が子どものころ、相撲では栃錦と若乃花、野球では巨人の長嶋茂雄・王貞治に夢中になった。
ミスターが巨人に入り、最初の試合で国鉄(現ヤクルト)スワローズの金田正一投手に4打数4三振を喫したときは、家(床屋)のラジオで実況放送を聞いた。
翌59年の6月5日にはわが家のテレビで天覧試合を見た。4対4の同点で迎えた9回裏、ミスターが劇的なサヨナラホームランを打った。そのとき、小学5年生だった――。
さて、中・高生ともなると、悩みの中心は今も「男女の交際のしかたについて」だろうか。「女学生の友」は夏の増刊号でこの「友情」問題を特集した。
巻頭は哲学者堀秀彦の「友情幸福論」。続いて、読者からの18本の相談(投書)に参議院議員で婦人運動家の奥むめおが回答している。
女優の浅丘ルリ子が「私のボーイ・フレンド」と題して、同じ日活の俳優仲間、裕ちゃん(石原裕次郎)、旭くん(小林旭)、ター坊(川地民夫)の3人について語っている。
ミスターや裕ちゃんが雑誌の表紙を飾る時代だった。「女学生の友」も時代の人気者をほうっておかなかった。
まだプロ2年の長嶋評である。世間に流布している「うわさ」を紹介しながら、ほんとうはどうなのだろうと取材を進める。
で、結論は月並みというか、「人気者であるという意識をすてて、もっと自由にふるまってほしい」程度で終わる。どうにも食い足りない。
ミスターの記事より強く印象に残ったのは表紙画だ。とがった細いあごと大きな瞳の女性が描かれている。
作者は藤田ミラノ。最近何かの本で名前を知ったばかりだ。しかし、この画家については、検索を続けてもほとんど情報が得られない。
日本からフランスへ移住し、そちらで仕事をしているというところで終わっている。それからどうなったのか、気になる画家のひとりではある。