2016年8月20日土曜日

サハリン⑨オオカミ

 ネットで拾った情報だが、北海道の「ヒグマの会」が平成11(1999)年、サハリン(樺太)でヒグマとシマフクロウの研究交流会を開いた。ガイドはワシリー氏。たぶん、われわれのガイドだったワシリー氏だ。
 翌12(2000)年、札幌で第20回「ヒグマフォーラム」が開かれる。サハリン州立大学のタチアナ・クラシコさんが「サハリンのヒグマと自然と人々」と題して報告した。通訳はワシリー・ミハロフさん。彼だろう。
 
 彼は、北海道でヒグマの生態調査に参加したことがある。学者や研究者にとっては貴重な案内人にちがいない。

 彼の話を聞いていて、日本列島につながる「北からの道」が頭に浮かんだ。間宮海峡は厳寒期(2~4月)、凍結する。ということは、毎年、大陸とサハリンが“地続き”になる。大陸の動物が島へ渡って来る。大昔の氷期にはもっと多くの動物が往来したことだろう。

 ワシリーさんの話では、サハリンにはカワウソが生息する。ヒグマもいる。大陸のアムールトラやオオカミが目撃されることもある。ヤマネコも大陸から凍った海峡を渡って来たが、今は姿を見ることはない。

 4年前、オオカミのつがいが現れ、猟師が罠をしかけて捕まえた。その剥製がサハリン州郷土博物館(旧樺太庁博物館)に展示されている。1階左側の動植物コーナーにオオカミがいた=写真。ヒグマもカワウソもいた。

 空を飛ぶ鳥や蝶でもなく、水の中を動き回る魚やアザラシでもなく、陸地を自分の足で移動する四つ足にとって、凍結した海峡は「新天地」への道だったのだろうか。

 自然はいつも生きやすいとは限らない。もっといいところがあるのではないか――生存本能が人間を含めた生き物を旅へと駆り立てる。厳寒期、間宮海峡が凍結すると、最短部8キロで大陸と島がつながる。グレートジャーニーは、「冒険」ではなく、「避難」のようなものではなかったか。

 日本ではオオカミもカワウソも絶滅した。日本のオオカミはどこから、どういうルートで渡来したのか。「北への道」と「北からの道」、両方から資料を読み直すと、また違った風景が見えてくるかもしれない。

 ――71年前のきょう(8月20日)、「北のひめゆり」事件が起きた。樺太西海岸の真岡にソ連軍が上陸すると、真岡郵便局の女性電話交換手が自決を図り、9人が亡くなった。けさ、ラジオが伝えていた。

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