いわき市の木村孝夫さん=2014年福島県文学賞受賞=は3・11以来、震災詩を書き続けている。
昨年(2016年)秋には、『ふくしまという舟にのって』『桜蛍』に続く3冊目の詩集『夢の壺』(発行・土曜美術社出版販売)を出した=写真。時間の経過とともに変化する原発避難者の心を代弁する。
たとえば、<フレコンバッグ>という作品。「この町は/線引きから解除され/帰還に向けた準備を急いでいる∥うわものは急ぎ足だが/その中に入るものが追いつかない∥フレコンバッグの山と/同居するような近さにあるのは/災害公営住宅∥放心状態にある町が/活気付く/なんてことはまだまだ先だ」
あるいは<羊>。「原発震災後には/羊を百頭用意して/眠りの入り口に持って行ったが/眠れなかった∥友人から百頭などでは駄目だ/と 言われた∥俺は入り口に/千頭持って行ったが/数えている途中で分からなくなって/全く眠れなかったよ∥(略)あれから五年が過ぎたが/未だに眠れないので/何度も試みたが駄目だった∥今は心療内科で/睡眠導入剤をいただいている」
いわきで心療内科医院を開いた精神科医の本もある。熊谷一朗著『回復するちから――震災という逆境からのレジリエンス』(星和書店、2016年)。震災と原発事故で多くの人が理不尽な喪失を体験した。
「本来なら心療内科などとは無縁で、豊かな自然に恵まれ、満ち足りた日々を送られていた方々である。幾分落ち着きを取り戻されたとはいえ、未だに先の見えない不安は隠しようもなく、苦しみは継続している。(中略)苦しみの根本のところは無論金銭で賠償できるはずのものではなく、むしろ新たな差別の元凶となることも多い」
月曜日(1月9日)に放送されたNHKスペシャル「それでも、生きようとした――原発事故から5年・福島からの報告」は、東京などの非被災地に向けて発信されたものだろう。福島県民にとってはローカルニュースなどで承知している内容だった。個別・具体で深くえぐったところがNHKのドキュメント番組らしい。
番組に福島医大「災害こころの医学講座」主任教授前田利治さんが登場した。去年10月、いわきで前田さんの講演を聴いた。演題は「アルコールと心身、睡眠の問題」。朝日新聞にインタビュー記事が載ったばかりだった。同趣旨の話になった。そのときの記事の要旨を拙ブログで振り返る。
福島県内で避難指示が出た市町村に住んでいた21万人の健康調査を行っている。うつ病の可能性がある人の割合は全国平均より高いが、減る傾向にはある。「ただ、岩手、宮城では急減した震災関連自殺は、福島では依然として高く、累計で80人を超えました。アルコール摂取に問題を抱える男性も2割前後で横ばいが続いています」
「5年後も福島だけ突出して多いのは、原発事故の影響と考えざるをえません。(中略)当初は希望を抱いていた人が希望を失いつつあります。地域社会との断絶が自殺の根底にあるのかもしれません。(中略)我々の調査で、地域社会が持つ助け合い機能の低下が、人々の心の回復を妨げることもわかってきました」
木村さんの詩に戻る。<孤独死は今も>の最終連。「今夜も仮設住宅のどこかで/気配だけがそっと体から離れようとしている/誰にも気づかれないように/新聞やニュースなどでは事件性がないと/小さく取り上げられるだけだ/忘れてならない 孤独死は今も続いている」。原発避難者や津波被災者のなかには、厳しい心的状況に追い込まれている人がいる――そのことを、頭においておかないと、と自分に言い聞かせる。
0 件のコメント:
コメントを投稿