夏井川渓谷はどこを見ても緑、緑、緑。季語でいう「万緑」の一歩手前だ。隠居に着いてすぐ庭をひと巡りしたカミサンが、けげんな表情になった。「なに、この穴は?」
隠居の庭は二段になっている。石垣の下の庭は、正確にはヨシ原だ。地中の水分が多いらしく、放置しておくとヨシが生える。で、年に2回は業者に頼んで草を刈る。ヨシが1メートルほどに生長した。すでに一面緑に覆われている。
その緑の一角、石垣のそばが畳2枚分くらいほじくり返されていた=写真。“犯人”はわかっている。イノシシだ。頑丈な吻(ふん)で土を掘り、石を飛ばしてミミズを食べたのだろう。ヨシの地下茎が切断されてむき出しになっていた。
隠居のある牛小川は戸数10戸ほどの小集落だ。JR磐越東線に沿って県道小野四倉線が伸びる。県道の土手が穴だらけになっていたときがある。丸い足跡があった。イノシシだった。破壊力がすごい。森を巡れば、黒い碁石を大きくしたようなイノシシの糞に出合う。線路の上の畑はトタン板で囲われ、そばの水田には最近、イノシシ除けの柵が設けられた。渓谷はイノシシの王国だ。
先日、ついにここまで――というニューズに接した、警備会社が双葉郡内を主に、福島県内でイノシシ捕獲事業に参入することになった。市町村から仕事を受注するという。そのためにスタッフ7人が「わな猟」の免許を取った。
わが家のある平・中神谷地区は、常磐線と夏井川の間に市街が形成されている。イノシシが最近、常磐線を越境して市街に出没するようになった。同じ地区の山の手の行政区では農作物被害が相次ぎ、免許を持つ住人がわな猟を行っている。行政から報奨金が出る。これまでにかなりの数のイノシシを捕獲したようだ。
隠居の下の庭の話に戻る。もともと遊休状態のスペースなので、ほじくり返されても実害はない。むしろ、もっと広くラッセルしてくれたらいい、そうすれば草刈りを頼まなくてすむ――という点で、カミサンと意見が一致した。しかし、なぜそこなのだろう。ミミズのほかに、ゴロンと横になって休む場所にした?
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