2017年5月7日日曜日

「仏様の花嫁」

 このゴールデンウイークにおきたこと――。近所の知り合いが家の中を片づけていたら、赤い漆塗りのさかずきが出てきた。金文字で真ん中に大きく「九十一歳」(縦書き)、その下に小さく「○田部ミキ」(横書き)とある=写真。カミサンの母か祖母?と聞くので、曾祖母だと答える。
 カミサンの曾祖母が亡くなったのは、カミサンが小学校6年のときというから、ざっと60年前だ。

 こんな話を聞いたばかりだった。曾祖母がいよいよ弱ってきたので、父が会津の漆器店に電話でさかずきを注文した。なぜそんなことをするのか、と曾祖母がただすと、父は「ばあさんが『仏様の花嫁』になるときの用意をしてる」。そう切り抜けた。

「仏様の花嫁」とはしゃれた言い回しだ。女性がそうなら、男性は「仏様の花婿」となるが、こちらはちょっとなじまない。あえていうなら、「仏様の子ども」か。

 当時としては、91歳は長命の部類だろう。いのちが消えるのは悲しいことだが、だれよりも長生きした、それはめでたいことなのだ、という思いが、赤いさかずきには込められている。

 あとで知り合いがさかずきを持参した。お父上は学校の先生だった。接点はPTAか。でも、そのころカミサンの学校には勤務していなかった。よくわからないが、カミサンの曾祖母の葬儀に参列したことだけは確かだ。酒を飲むわけでもないのでと、知り合いはさかずきを置いて行った。60年前の記憶が唯一の形見となって戻ってきた。

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