いわき昔野菜フェスティバルでは、必ず学術講演がある。江頭宏昌山形大農学部教授が講師を務める。昔野菜フェスティバルを主催するいわき昔野菜保存会のアドバイザーのような存在だ。
今年(2018年)の講演=写真=のタイトルは「『伝える』意味を改めて考える」だった。「改めて」が入ったのは、2011年の初回の講演が「在来作物を伝える意義」だったからだろう。
初回の講演で江頭さんは、未来学者アルビン・トフラーの『第三の波』を紹介しながら、通常の経済とは別の「非金銭経済」の出現について触れた。「社会の冨」が金銭だけでなく金銭以外のものも含むようになった、「生産消費者(プロシューマー)」が登場してきた――。生産消費者とは、たとえばDIY、ガーデニング、家庭菜園を楽しむ人であり、ボランティアやNPOの活動もそれに含まれる。
週末に土いじりをしている身として、以後、自分を「生産消費者」と位置づけるようになった。「生産もする消費者」と意識することで、プロの生産者の思いにも、純粋な消費者の思いにも共感できる回路ができたように思う。
今回の講演ではまず、山形の「宝谷(ほうや)かぶ」の事例を取り上げた。食べてくれる消費者がいないと生産者は減る。消費者が生産者とかかわりあうことで、生産量も生産者も増えた。が、地域の過疎化・高齢化がネックになる。高齢で引退する。亡くなる。「風前のともしびか」と思われたとき、生産者の孫が「種を絶やしたくない」と後継者になった。
なぜ在来作物は残ったのか。江頭さんは①おいしいから②親戚・知人に“お福分け”すると喜ばれる③先祖伝来の種を自分の代で切らしたくない④飢饉への備え――の4点を挙げた。
そのための「文化の三点セット」がある。KJ法で知られる文化人類学者川喜田二郎さん(故人)に教えられたことだという。「モノ(道具)・知識・教習」だ。「教習」とは「実地に学ぶ」ということだろう。サーフィンを例に挙げれば、ボードを手に入れた、本を読んで知識を吸収した、しかし、肝心の海で実地に学ばないことには「波乗り」はうまくならない。
最後に、江頭さんは「伝えることの意義」について、あらためて強調した。①自分が体験した「感動」がないと伝わらない②伝えるべきものの本質を見極める③幸せを願う④簡単にあきらめない――。フェスティバルが終わって懇親会に移ったとき、生産者でもあるメンバーが「あきらめない」ことに勇気づけられた、と語った。
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