2018年11月20日火曜日

どの「紅葉」を楽しむか

 夏井川渓谷の隠居で土いじりをしていると、そばの県道を行き来する行楽客の話が耳に入る。10日ほど前――。「(ここの紅葉は)こんなものか」。行楽客の「紅葉」のイメージと実際にズレがあったらしい。
 1カ月前にも書いたことだが、夏井川渓谷が錦繍をまとうのは10月中ごろ。ところが、テレビが伝える紅葉情報はカエデだけだ。カエデはそのころ、まだあおあおとしている。カエデの紅葉がピークになるころには、ほかの広葉樹の葉はあらかた散っている。11月も半ばのこの時期、「全山紅葉」を期待して渓谷へやってくると、がっかりする。

 そのカエデも落葉が始まった。おととい(11月18日)、渓谷の隠居へ行くと、庭のカエデの樹下が赤く染まっていた=写真。冬が近づいている。

 この二十数年、夏井川渓谷に通って“定点観測”をして分かったのは、紅葉には二つあるということだ。「前期の紅葉」と「後期の紅葉」、あるいは「非カエデ」と「カエデ」。全体の紅葉を楽しむなら10月の非カエデ、顕微鏡でのぞくようにピンポイントで紅葉を楽しむなら11月のカエデだ。

 一般の行楽客は、おそらくは「全山紅葉」が目当てでやって来る。参考にするのはテレビの「紅葉情報」だろう。カエデ限定で、間違ってはいないが、親切ではない。私がテレビ局のモニターだったら、「前期」はヤマザクラの葉、「後期」はこれまで通りカエデの葉をマークにするよう提案する。カエデ一本で紅葉を表現すること自体、無理があるのだ。

夏井川渓谷の名勝「籠場の滝」のそばに、随筆家大町桂月の歌碑が立つ。「散り果てゝ枯木ばかりと思ひしを日入りて見ゆる谷のもみぢ葉」。この歌を逆から解釈するといい。カエデの紅葉が燃え上がるころには、ほかの紅葉は散って閑散としている。

行楽客のつぶやきがけっこうグサッときたので、どの「紅葉」を楽しむか、メディアにも工夫の必要があることを書いてみた。

0 件のコメント: