今年(2018年)は、正賞(せい賞)、準賞の該当作品はなかった。それらに次ぐ奨励賞に3編が選ばれ、中学生以下の青少年特別賞には2編が入った。
表彰式に先立ち、受賞者5人と昼食を摂りながら懇談した。そのときのやりとり、あるいは表彰式での受賞者あいさつ=写真、記者発表時での受賞者コメントから、作者の志向や動機などを知ることができた。
受賞作品と作者を記しておく。奨励賞=①「森と海の端(はし)で」渡部茂樹(51)・公務員(好間)②「チーズは無理にさかないようにする」宮一宇(28)・塾講師(平)③「蕨堂」高木奴馬(24)・慶応大3年生(川崎=内郷出身)。青少年特別賞=①「過去と未来の交差点」新妻野乃香(15)・草野中3年生(平)②「セザンヌ」吉田快斗(15)平一中3年生(好間)。宮一宇と高木奴馬はペンネーム、「過去と未来の交差点」が戯曲のほかはすべて小説だ。
自分のブログを読んで思い出したのだが、平成19(2007)年=第30回までは、3人による一次選考を経て、5人全員で二次選考を行うという形式だった。私が選考委員に加わった翌20年から、5人がそれぞれ全作品を読んで一次選考通過作品をしぼり、二次選考で合議するかたちに変わった。
今年の応募作品は41編と例年より少なめだったが、一次選考通過作品は17編と多かった。飛び抜けた作品がなかったため、選考委員の判断が分かれた。
青少年特別賞にしぼって書く。新妻さんの受賞者コメントに「私は昔からドラマや演劇が好きで、今年の文化祭劇の台本を任されたこともあり、本コンクールに応募しようと思いました」とある。受賞者あいさつでも「将来は演劇関係の仕事に就きたい」と語った。浜通りでは新たな演劇文化が花開く予感がある。ぜひその一角を担ってほしい。
吉田君は「今年の2月、登校中に作品の発想を得た」という。「この作品は僕にとって日々の思いのはけ口でした。その日ふと心に浮かんだことをメモし、それをもとに紡ぎました」と、受賞者コメントに記している。「銀の匙」の中勘助を「心の師匠」というあたり、並ではない。
詩人鮎川信夫が晩年の日記に記していた文章がある。「人生(ライフ)は単純なものである。人がおそれるのは、畢竟(ひっきょう)、一切が徒労に帰するのではないかということであるが、人生(ライフ)においては。あらゆる出来事が偶発的(インシデンタル)な贈与(ギフト)にすぎない。そのおかえしに書くのである。正確に、心をこめて、書く。――それがための言葉の修練である」
奨励賞の3人も含めて、5人は「平成」最後の吉野せい賞受賞者だ。将来性という点では記憶に残る年になった。とにかく、正確に、心を込めて、書く――これに徹するしかない。
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