2018年11月29日木曜日

線香花火のようなカビ

 キノコの観察・採集を始めたころ、カビに侵された虫の死骸を何度か見かけた。あるとき、カマキリが死んで節々が白くなっていた。「冬虫夏草」にくわしい“同業他社”氏に話すと、「『冬虫夏草』ではなく『虫カビ』ではないか」といわれた。10年余り前のことだ。そのとき(2008年3月)の拙ブログの抜粋・要約。
――冬虫夏草と虫カビの違いは菌類でいう「柄」があるかないか、だという。そういえばカマキリには柄がなかった。ただの虫カビというわけか。後日、ネットで調べたら「昆虫病原糸状菌という意味では冬虫夏草の仲間だが、冬虫夏草のようでない虫カビ。蚕の硬化病の原因となる白きょう病菌の仲間」とあった。

 日本冬虫夏草の会のHPは、冬虫夏草研究の第一人者、故清水大典氏の見解として、未記録の寄主例としてカブトムシやクワガタ、カミキリムシの成虫などがあり、これらの虫から不完全型ではない、子嚢(しのう)果(「柄」の先にできる袋状の結実部=普通のキノコで言えば「傘」か)の生じた冬虫夏草が見つかれば間違いなく新種、という話を紹介している。

 夏井川渓谷にある隠居の庭では、カマキリのほかに、イナゴ、ガなどの虫カビも見つかっている。唯一、トンボだけは節から「柄」が出ていたから、冬虫夏草のヤンマタケ(不完全型)だった。

 2008年も正月明けに隠居の庭をじっくり見て回ったら、木の幹にぴたっと止まった状態で菌にやられたカミキリムシがいた。図鑑に当たるとキボシカミキリの雄らしかった。一瞬、「新種の冬虫夏草?」と胸がときめいたが、そうは問屋が卸さない。これも虫カビである――。

 先週の土曜日(11月24日)、いわき地域学會の市民講座が開かれた。昆虫が専門の鳥海陽太郎幹事が「生きものたちの息づくいわきの自然」と題して話した。最後の最後に紹介したのが、「スポロディニエラ・ウンベラータ」という「ケカビ」だった=写真。要は虫カビ?

 チョウだかガだかが葉裏に止まった状態で息絶え、その体から白い菌糸が伸び、先端で「線香花火」状に開いている。去年(2017年)8月14日、いわき市好間町北好間で発見、撮影した。「線香花火」というタイトルで今年の「日本の自然」写真コンテストに応募したら、みごと入選した。

 写真の出来栄え以上に、私には「スポロディニエラ・ウンベラータ」の、いわきでの発見は大ニュースのように思われた。まず和名がないほど、珍しいケカビだ。

インターネットで情報を探る。インドネシア、エクアドル、台湾と発見例は少なかったのが、ネット時代に入ると、日本の各地からも報告されるようになった。ハネナシコロギス、ヒグラシ、アケビコノハ、ミンミンゼミ、キチョウなどの「線香花火」の写真がアップされていた。日本も夏はより熱帯化しつつあるということだろうか。カビやキノコを含めて、まだまだ知らないいわきがそこに息づいている。

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