10月末の今はめっきり減ったが、ちょっと前まで、神谷(平)のわが家の庭では、あちこちにジョロウグモが網を張っていた。
生け垣の切れ目、勝手口に牛乳箱がある。私が外から牛乳を取りに行くと、網がベタッと顔に張り付く。それを払ったら、二度とその高さに網を張らなくなった。もっと高くするか、場所を替えるかするくらいの知恵は、ジョロウグモにもあるらしい。ただし、次の年にはまた同じことが繰り返される。
夏井川渓谷(小川)の隠居の庭木には、まだ至る所にジョロウグモが網を張っている。渓谷は虫の王国だ。隠居で土いじりをしている、その瞬間に虫が網にかかり、ジョロウグモの餌食(えじき)になる=写真(小さいクモは雄)。網の糸は黄色くて強い。虫たちは一度引っかかると、脱出は不可能だろう。
7月中旬、隠居の庭でコガネグモを見た。腹部に黒と黄色の横縞(よこじま)があるのでわかった。その後はしかし、ジョロウグモ一色だ。ジョロウグモと同じように大きくなるナガコガネグモも以前は見かけたが、今年(2020年)はわが家の庭にも、隠居の庭にもいない。網の中央につくられる白い隠れ帯、これが目に入ればすぐわかるのだが……。
若いころ、クモに詳しいカメラマンと平の街の里山(石森山)に入って、花やキノコ、鳥や虫たちを観察した。それで、遅まきながらクモは昆虫ではないことを知った。昆虫は頭・胸・腹の三つがあって脚は6本だが、クモは頭と腹の二つで脚が8本だ。目も昆虫は複眼だが、クモは単眼で最大8個ある。とはいえ、大きくは「虫」のなかに入れても間違いではないだろう。しかも、蚊などを食べる「益虫」だ。
以来、部屋の中にクモが現れても、追っ払ったり、ハエたたきでつぶしたりはしない。通り道に張った網が邪魔なときだけ払う。草の葉の上を動き回るネコハエトリなどは、ときにピョンとはねたりしてあいきょうがある。すっかりハエトリグモのファンになった。
阿修羅像はクモをモデルにした、という話をネットで拾った。真贋(しんがん)はともかく、阿修羅とクモを結びつける想像力にうなった。で、興福寺(奈良)の国宝・阿修羅像をネットで眺めた。なるほど、「三面六臂(ぴ)」だ。顔は3面だから目は6個、手足は手6本プラス足2本で8本。クモの構造的な特徴を備えている。
この阿修羅像を見ると、決まって思い出す顔がある。大相撲の2001年夏場所14日目。貴乃花は武双山と戦って敗れ、右ひざを痛める。翌日の千秋楽。本割で武蔵丸に敗れる。そのあとの、13勝2敗同士の優勝決定戦。武蔵丸を破った貴乃花の、鬼のような形相が忘れられない。あのとき、貴乃花は阿修羅となって闘っていたのだ。
貴乃花はその後、7場所連続休場したあと出場したが、やはりひざがおもわしくなく、すぐ引退した。力士生命をかけて大一番に臨んだという覚悟のあかしが、あの表情だったのだ。テレビ桟敷(さじき)にもそのことが伝わってきた。あっぱれな散り際だった。
横道にそれた。庭のナガコガネグモはいったいどこへ消えたのか? ネットで検索しても参考になるような情報は得られない。
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